民法 債権 (H12-29)
債権者取消権(詐害行為取消権)に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつあるか。
ア 債権者は、債務者の財産から満足を得られない場合には、債権取得前に債務者が行った贈与契約を詐害行為として取り消して財産を取り戻すことができる。
イ 不動産が二重に譲渡されたため、第一の買主が不動産の引渡しを受けることができなくなった場合には、第一の買主は、債務者と第二の買主との間で行われた売買契約を詐害行為として取り消すことができる。
ウ 債務者の財産状態が離婚に伴う相当な財産分与により悪化し、債権者の満足が得られなくなった場合には、債権者は財産分与を詐害行為として取り消すことができる。
エ 債務者が第三者に金銭を贈与したことにより、自己の債権の満足が得られなくなっただけではなく、他の債権者の債権も害されるようになった場合には、取消債権者は自己の債権額を超えていても贈与された金銭の全部につき詐害行為として取り消すことができる。
オ 債権者は自己の債権について、詐害行為として取り消し、受益者から取り戻した財産から他の債権者に優先して弁済を受けることができる。
1 一つ 2 二つ 3 三つ
4 四つ 5 五つ
解答 5
ア 誤
詐害行為前に被保全債権が成立していなければならない。
イ 誤
まずは、二重譲渡における対抗関係で画一的に処理される。
少なくとも無資力という要件を満たしていないと債権者取消権を行使できない。
ウ 誤
これは、判例を聞いている問題ですが、身分行為は原則として債権者取消権の対象とならないということを知っていれば、判例を知らなくても原則論だけで解けてしまう問題です。
逆に判例を知っている人は、特段の事情についての正確な知識が要求される問題です。
(最判昭和58年12月19日)
「離婚に伴う財産分与は、民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならない。」
本問は、離婚に伴う相当な財産分与ですから、実質的に財産の処分という財産権を目的とする法律行為といえるような特段の事情がなく、債権者取消権の行使の対象とならないのです。
エ 誤
債権者取消権の行使は、当事者間の法律関係に多大な影響をもたらすため、取消権の範囲が限定されており、金銭のような可分のものに対しては、自己の債権額の範囲内でのみ取り消すことができる。
オ 誤
金銭の場合は、結果的に事実上の優先弁済が受けられるが、動産や不動産の場合は、責任財産の保全という趣旨が貫かれているので優先弁済権はない(425条)。