基礎法学 (H17-2)
情報と法に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 電子署名法※1は、電子署名に、自然人の本人確認だけではなく、会社などの法人の存在証明としての効力を認めるものである。
2 刑法における窃盗罪が成立するためには、財物の占有が奪われることが必要であり、情報が記録されている媒体を持ちさることなく情報だけを違法に収得しても、財物占有が奪われることはないから、窃盗罪は成立しない。
3 著作権、特許権などの情報に関する知的所有権が財産として保護されるためには、官公署に登録されることが必要であり、登録されていない著作権、特許権は第三者に対抗することはできない。
4 インターネット上の情報について、憲法上、表現の自由は保障されているが、通信の秘密の保護の対象となることはない。
5 平成17年4月に施行された個人情報保護法※2は、情報公開法※3とは異なり、電子計算機により処理された個人情報についてもっぱら適用され、手書きの個人情報について適用されることはない。
(注)
※1 電子署名及び認証業務に関する法律
※2 個人情報の保護に関する法律
※3 行政機関の保有する情報の公開に関する法律
解答 2
本問は一見すると、個々の肢で聞いていることに関連性もなく、法律科目では勉強しない法律も含まれているため、難しく思われるかもしれません。
しかし、問題文のテーマである「情報と法」がヒントになっていることがわかれば、割と簡単に答えられるはずです。
問題文のテーマである「情報と法」を分析していきます。
「情報」そのものは、手に触れることのできない無体物です。
この無体物たる情報は、どのような「法」で保護されるのか、というのが出題意図です。
まず、本問の中で、行政書士試験の法令科目で出題される「法」から解説していきましょう。
憲法の問題である肢4を見ていきましょう。
(肢4)
通信の秘密(憲法21条2項)は、表現の自由の側面のほかにプライバシーの自由の側面があります。
通信の秘密も憲法上保障される人権ですから、通信におけるプライバシーに関わる情報もその保護の対象になるのは当然です。
それは、情報伝達媒体がインターネットを利用していても、同じことです。
よって、肢4は誤りです。
次に、個人情報保護法に関する肢5を見ていきましょう。
(肢5)
個人情報保護法は、憲法で保障される通信に関するものも含んだプライバシー権(憲法13条 21条2項)を具体化した法律です。
情報がプライバシー権の保護の対象になるなら、それを具体化した個人情報保護法の保護の対象になるのは当然ですね。
情報自体を保護するものですから、個人情報がどのような方法で記録されているかは問題となりません。
ですから、電子計算機により処理された個人情報はもちろん、手書きの個人情報も当然保護の対象になります。
よって、肢5も誤りです。
次に、電子署名法に関する肢1ついて見ていきましょう。
(肢1)
電子署名法は、あまり耳にしたことがないかもしれません。
しかし、問題文にヒントがあるのに気がつきましたか?
「会社などの法人の存在証明としての効力」と書かれていますね。
会社は、どうやって生まれたでしょうか?
会社の設立について勉強してきましたね。会社法は、受験科目です。
もうご存知の通り、会社は原則として登記によって法人格が付与されて誕生します。
ですから、登記がいわば産みの親なら、その子である会社などの法人の存在証明は、登記簿によってなされるはずなのです。
ですから、電子署名法が、電子署名に、会社の存在証明としての効力を認めるものではありません。
よって、肢1は誤りです。
なお、電子署名というくらいですから、サインですね。
ネットでもサインして取引したりしますから、それと同じようなものだと思ってください。
ですから、電子署名法は、手書き署名や押印と同等に通用する法的基盤を整備するもので、自然人や会社の存在証明としての効力を認めるものではないのです。
さて、残りの2つの肢は、行政書士試験の法令科目で出題される「法」ではありません。
まず、刑法に関する2を見ていきましょう。
(肢2)
刑法はなじみがないですが、これにもヒントがあります。
「窃盗罪が成立するためには、財物の占有が奪われることが必要」と書かれていますが、情報がこの「財物」にあたるかどうかを聞いているのです。
刑法はなじみがなくても、民法は受験科目ですのでなじみがありますね。
民法では、原則として金銭以外の物は金銭と交換できる財物ですね。
そして、その物とは、有体物です(民法85条)。
民法と刑法は法律が異なりますが、「財物」が原則として有体物であるのは同じです。
ですから、無体物たる情報がこの「財物」にはあたらないのです。よって、2は正しいです。
最後に、著作権法、特許法に関する3を見ていきましょう。
(肢3)
ここでは、「情報に関する知的所有権」がヒントになっています。
つまり肢3は、著作権法、特許法では、無体物たる情報が保護の対象となっていることが前提となっており、保護要件と第三者への対抗要件について問題となっています。
特許権は、特許庁の審査を経て登録されることにより、特許権が発生し、第三者にも対抗できるのです。
この制度自体は知らなくても、弁理士という資格を知っていれば常識的にわかるのではないでしょうか。
弁理士とは、発明を書面によって特許権に権利化してもらうように手続きをする資格者です。
では、著作権はどうやって発生するのでしょうか。
それは、著作物が完成した瞬間に発生するのです。
著作権も登録できますが、これは民法で勉強した不動産の登記と同じようなもので、権利の変動を公示することで、二重譲渡などから保護するための第三者対抗要件なのです。
ですから、同じ登録でも、特許権と著作権とでは、その意味合いが異なるのです。
上記の会社の登記と不動産の登記と似た関係ですね。
よって、3は誤りです。
なお、特許権や著作権を侵害すると、差止や損害賠償請求ができ、刑事罰が課されますので、これは無体物に関して民法や刑法の特別法という側面も有しています。
本問を正解する上では、刑法の保護対象は有体物であるということさえ知っていればよいですが、今後の出題可能性からすると、本問の出題意図がわかっていると役に立つと思います。
本問をまとめますと、「情報と法」すなわち無体物たる情報は、どのような「法」で保護されるのか(=出題意図)、について法体系に則って聞かれているのです。
憲法→個人情報保護法=情報はプライバシー権の保護対象
↓(一般法)
刑法(民法etc)=保護対象は有体物
↓(特別法)
特許・著作権法=保護対象は無体物
この関係がわかっていれば、類似問題にも応用できるでしょう。