民法 債権(H17-28)
贈与者Aと受贈者Bとの関係に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らして妥当でないものはどれか。
1 未登記の建物を書面によらず贈与した場合において、AがBにその建物を引き渡した ときは、Aはその贈与契約を撤回できない。
2 既登記の建物を書面によらずに贈与した場合において、AがBにその建物を引き渡し たときは、所有権移転登記が未了であっても、Aはその贈与契約を撤回できない。
3 既登記の建物を書面によらずに贈与した場合において、AからBにその建物の引渡し が行われていないときであっても、所有権移転登記がなされていれば、Aはその贈与契 約を撤回できない。
4 負担付贈与においてBがその負担である義務の履行を怠るときは、Aは契約の解除を することができる。
5 Bに対する定期の給付を目的とする贈与であらかじめ期間の定めがあるものは、Aが 死亡しても、その期間内は効力を失うことはない。
解答 5
主に贈与の撤回に関する問題です。
550条では、書面によらない贈与ということで、原則と例外がわかりにくく書かれていますが、要するに、贈与はプレゼントです。
プレゼントしたいという気持ちが形に表れれば、もう「やっぱりやめた」と撤回はできないということです。これだけわかっていれば、肢1~3までは簡単に正誤の判断がつきます。
プレゼントしたいという気持ちが形に表れるとは、書面にしたためたり、動産なら引渡したり、不動産なら登記や引き渡したりすることです。
気持ちが目に見える形で表れた以上、もう相手はいただいたと信頼していますから、その相手の信頼を裏切ることはできませんので、撤回できないのです。
これに対して、プレゼントしたいという気持ちを、口頭でついうっかり言ってしまった場合は、本心ではありませんし、相手もまだ実際に受け取ったわけではないですから、半信半疑の状態ですね。
この場合は、「あげるって言っちゃったけど、やっぱりやめとく、ごめん」と撤回できるのです。この理解を前提に、肢1~3まで見ていきましょう。
(肢1~肢3)
肢1は、建物を引き渡していますから、もう気持ちが目に見える形で表れていますね。
肢2も、書面によらなくても、現物の建物を引き渡していますから、もう気持ちが目に見える形で表れていますね。
肢3も、書面によらなくても、建物を引き渡していなくても、登記して公示されていますから、もう気持ちが目に見える形で表れていますね。
ですから、肢1~3は全て撤回することはできません。
よって、肢1~3は全て正しく、妥当です。
(肢4)
肢4は既存の知識で解けるはずです。
贈与契約というのは、諾成、無償、片務契約です。
ところが、負担付贈与契約というのは、文字通り、受贈者が何かしら負担する代わりに、贈与する契約ですから、負担部分の限度で対価関係にあることになります。
例えば、明日一日家事を手伝ってくれることを約束に、10万円の商品券をプレゼントしたという負担付贈与の場合に、家事の手伝いに来なかったらどうなるでしょうか。
すでに動産たる10万円の商品券を引渡して贈与していますから、もう撤回はできません。
しかし、このような負担付贈与は、売買契約のように、例えば、売主が不動産の引渡債務を負い、買主が代金支払債務を負うという双務契約に類似しますね。
ですから、双務契約に関する規定が準用されます(553条)。
そうすると、この負担部分に関して、その義務を受贈者が履行しない場合は、債務不履行になりますから、贈与者は解除することができるのです。
よって、肢4は妥当です。
これで消去法により、正解が肢5とわかりましたね。
(肢5)
定期的に贈与するということは、例えば、毎月生活費を5万円贈与するという契約ですから、当事者間に何かしら一定の特別な関係があって、互いの気持ち=意思が尊重されます。
ですから、当事者の一方が死亡した場合は、その関係が崩れたのと同じことですから、効力を失うことにしているのです。
このように、本問は、贈与者の気持ち=意思が表面に現れているか否かで判断できれば難しくない問題ですから、考え方を参考にしてみてください。