民法 債権 (H19-33)
AはBから中古車を購入する交渉を進めていたが、購入条件についてほぼ折り合いがついたので、Bに対して書面を郵送して購入の申込みの意思表示を行った。Aは、その際、承諾の意思表示について「8月末日まで」と期間を定めて申し入れていたが、その後、契約の成否について疑問が生じ、知り合いの法律家Cに相談を持ちかけた。
次のア~オのAの質問のうち、Cが「はい、そのとおりです。」と答えるべきものの組合せは、1~5のどれか。
ア 「私は、申込みの書面を発送した直後に気が変わり、今は別の車を買いたいと思っています。Bが承諾の意思表示をする前に申込みを撤回すれば、契約は成立しなかったということになるでしょうか。」
イ 「Bには、『8月末日までにご返事をいただきたい』と申し入れていたのですが、Bの承諾の意思表示が私に到着したのは9月2日でした。消印を見るとBはそれを9月1日に発送したことがわかりました。そこで私は、これをBから新たな申込みがなされたものとみなして承諾したのですが、契約は成立したと考えてよいでしょうか。」
ウ 「Bからは8月末を過ぎても何の通知もありませんでしたが、期間を過ぎた以上、契約は成立したと考えるべきでしょうか。実は最近もっとよい車を見つけたので、そちらを買いたいと思っているのですが。」
エ 「Bは、『売ってもよいが、代金は車の引渡しと同時に一括して支払ってほしい』といってきました。Bが売るといった以上、契約は成立したのでしょうが、代金一括払いの契約が成立したということになるのでしょうか。実は私は分割払いを申し入れていたのですが。」
オ 「Bの承諾の通知は8月28日に郵送されてきました。私の不在中に配偶者がそれを受け取り私のひきだしにしまい込みましたが、そのことを私に告げるのをうっかり忘れていましたので、私がその通知に気がついたのは9月20日になってからでした。私は、Bが車を売ってくれないものと思って落胆し、すでに別の車を購入してしまいました。もう、Bの車は要らないのですが、それでもBとの売買契約は成立したのでしょうか。」
1 ア・ウ
2 イ・エ
3 イ・オ
4 ウ・エ
5 エ・オ
解答 3
本問は、(H4-31)と類似する問題ですが、問題文を具体的な事実に書き換えるだけでずっと難しく感じるのではないでしょうか。
それは、(H4-31)では、条文のみを想起して条文と問題文が合致しているか否かで判断すれば解けるものです。
これに対して、本問の場合、具体的事実からまずどの条文にあてはまるのかどうかを判断しなくてはなりません。
適用条文を確定できれば、後は、(H4-31)と同様です。
このように、本問は、事実の条文へのあてはめのステップが入るために、難しく感じるのです。
つまり、事実を法律にあてはめて結論を出すという法的三段論法が問われているのです。
今後もこのような具体的な事実を条文にあてはめる問題は出題されると思いますのでこのような問題に慣れておきましょう。
ア そのとおりでない。
承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない(521条1項)。
したがって、Aが撤回しても契約は成立する。
イ そのとおりである。
申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる(523条)。
したがって、Aは契約が成立したと考えてよい。
ウ そのとおりでない。
申込者が承諾の期間を定めた申込みに対してその期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う(521条2項)。
したがって、通知承諾の期間が過ぎている本肢では、申込みの効力は失われているため契約は成立してない。
エ そのとおりでない。
承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす(528条)。
したがって、当初の申し込みは拒絶したことになり、新たに代金一括払いの契約の申込みがあったとみなされる。
申込の拒絶なので、Aが、そのまま放置すれば契約は成立しない。
Aが新たな申込として承諾すれば契約は成立することになる。
オ そのとおりである。
相手方の勢力圏内に意思表示(=承諾)が入れば、到達があったことになる。
本人以外が受け取った場合について判例は「到達とは、相手方によって直接受領され、または了知されることを要するものではなく、意思表示または通知を記載した書面が、それらの者のいわゆる支配圏内におかれることをもって足りるものと解すべきである」(最判昭和36年4月20日、最判昭和43年12月17日)としている。
したがって、契約は成立していることになる。