行政法 国家賠償法 (H21-19)
国家賠償法2条にいう公の営造物に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 公の営造物とは、国や公共団体が所有するすべての物的施設をいうわけではなく、公の用に供しているものに限られる。2 公の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうが、賠償責任が成立するのは、当該安全性の欠如について過失があった場合に限られる。
3 河川・海浜等の自然公物は公の営造物に当たらないが、これに付随する堤防や防波堤は人工公物であり公の営造物に当たるので、賠償責任が成立するのは、堤防等に起因する損害の場合に限られる。
4 公の営造物の管理者と費用負担者とが異なる場合、被害者に対して損害賠償責任を負うのは、費用負担者に限られる。
5 公の営造物の設置または管理に起因する損害について賠償を請求することができるのは、その利用者に限られる。
解答 1
1 正
公の営造物とは、国又は公共団体により直接に公の目的に供用されている個々の有体物であり、情報などの無体財産を含まないとされています。
例えば、学校、病院、図書館、老人ホームなどです。
「公の営造物」という言葉からすると不動産だけのようにも思えますが、不動産だけでなく、動産などの有体物も含まれると解されています。
例えば、公用車や警察官等の使用するピストルなども「公の営造物」として広く認められています。
国家賠償責任は、無過失責任であり、被害者をより広く保護するためです。
ただし、国又は公共団体の有する公の目的に供用されていないものは「公の営造物」に含まれません。
2 誤
国家賠償法2条は、公の営造物の設置・管理の瑕疵による損害について国が責任を負うことを確認しつつ、被害者保護の観点から民法の工作物責任より広く責任が認められるようにしたものです。
この場合の国等の責任は、民法の工作物における所有者の責任と同様に無過失責任です。
3 誤
2条1項『道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。』
河川・海浜等の自然公物も公の営造物にあたります。
4 誤
営造物の設置・管理する者と営造物の設置・管理の費用を負担する者とが異なる場合に、どちらか一方にしか損害賠償請求できないとすると、原告が被告を誤ってしまった場合、救済の機会を失う恐れがあります。
そのため、営造物の設置・管理する者と営造物の設置・管理の費用を負担する者の両方に損害賠償請求できるようにしてあるのです。これも被害者の保護を厚くしようという趣旨です。
5 誤
騒音や大気汚染などは、それ自体が営造物の物理的な瑕疵ではなく、営造物を使用したことから生じているので、これらを機能的瑕疵といいます。
こうした機能的な瑕疵による損害については、当該営造物の利用者に限られず、当該営造物の存在に起因してその周辺居住者等に被害が及ぶ場合には、その被害者もまた損害賠償を請求することができるとするのが判例(最判昭和56年12月16日)です。