民法 総則 (H23-27)
無効または取消しに関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはいくつあるか。
ア BがAに騙されてAから金銭を借り入れ、CがBの保証人となった場合、CはAの詐欺を理由としてAB間の金銭消費貸借契約を取り消すことができる。
イ BがAに騙されてAから絵画を購入し、これをCに転売した場合、その後になってBがAの詐欺に気がついたとしても、当該絵画を第三者に譲渡してしまった以上は、もはやBはAとの売買契約を取り消すことはできない。
ウ BがAから絵画を購入するに際して、Bに要素の錯誤が認められる場合、無効は誰からでも主張することができるから、Bから当該絵画を譲り受けたCも当然に、AB間の売買契約につき錯誤無効を主張することができる。
エ BがAに強迫されて絵画を購入した場合、Bが追認をすることができる時から取消権を5年間行使しないときは、追認があったものと推定される。
オ 未成年者であるBが親権者の同意を得ずにAから金銭を借り入れたが、後に当該金銭消費貸借契約が取り消された場合、BはAに対し、受領した金銭につき現存利益のみを返還すれば足りる。
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
5 五つ
解答 4
個数問題ですが、22年度問題27に引き続いて意思表示および制限行為能力者の基本問題ばかりですので是非とも正解したい問題です。
ア 誤
AB間の売買契約と、AC間の保証契約とは別個独立の契約です。CがAに騙されたわけではなく、あくまでもBがAに騙されて契約しているので、契約当事者はBであり、詐欺による取消権を行使できるのは、Bだけです。
イ 誤
AB間の契約が、詐欺による契約であることはわかりますね。ですから、Cの主観に関わらず、BはAとの売買契約を取り消すことができます(96条1項)。
ただし、Cは取消前の第三者ですから、Cが善意の第三者であれば、その契約の取消しを対抗することはできません。
このように、当事者間の契約を取消すことができることと、その取消しを第三者に対抗できるかどうかは別の話ですので気をつけましょう。
ウ 誤
錯誤無効を認めた趣旨は、表意者本人を保護することにあります。
ですから、表意者本人が錯誤であると認識し、主張していないのに、それ以外の第三者が錯誤であるとして主張することは原則としてできないのです。このような無効を、相対的無効(取消的無効)といいます。虚偽表示の場合の誰でも無効を主張できる絶対的無効と異なるのです。
ですから、Cも当然にAB間の売買契約につき錯誤無効を主張することができるわけではないのです。
エ 誤
追認をすることができる時から取消権を5年間行使しないときは、取消権は時効によって消滅するので(民法第126条)、追認があったものと推定されるのではありません。
オ 正
未成年者の場合、契約の意味自体よくわからずに契約しているので、未成年者保護のために善悪問わず現存利益だけでよいのです(121条)。
なお、親権者はAに残りの金銭を返還する義務はないのかという疑問があるかもしれませんが、民法5条1項2項・121条但書が適用されるのみで、親権者はAに残りの金銭を返還する義務はない、という結論となります。
未成年者が遊興費として使用したのでなければ、現存利益のみ返還するといっても全額返還されます。例えば、未成年者が自己の別の借金の返済に充てた場合や生活費に使用したような場合は、現存利益がありますので、この場合は、全額返還され、残りというものがありません。現存利益のみで足りるのは、法的な判断のできない未成年者の保護のためであり、取引の相手方としても未成年者かどうかを確認してから契約を締結すべきであるからです。