行政法 情報公開法 (H24-25)
Xは、消費者庁長官に対して、同庁が実施したA社の製品の欠陥に関する調査の記録につき、行政機関情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)に基づき、その開示を請求したが、消費者庁長官は、A社の競争上の地位を害するため同法所定の不開示事由に該当するとして、これを不開示とする決定をした。この場合についての次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 Xは、不開示決定に対して、内閣府におかれた情報公開・個人情報保護審査会に対して審査請求をすることができるが、これを経ることなく訴訟を提起することもできる。
2 Xは、消費者庁長官を被告として、文書の開示を求める義務付け訴訟を提起することができる。
3 Xは、仮の救済として、文書の開示を求める仮の義務付けを申立てることができるが、これには、不開示決定の執行停止の申立てを併合して申立てなければならない。
4 Xが提起した訴訟について、A社は自己の利益を守るために訴訟参加を求めることができるが、裁判所が職権で参加させることもできる。
5 Xは、不開示決定を争う訴訟の手続において、裁判所に対して、当該文書を消費者庁長官より提出させて裁判所が見分することを求めることができる。
解答 4
肢1 誤
不開示決定がなされた場合は、開示請求者の目的が完全に達成されていないので、これらの決定も処分として行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となります。
不服申立前置の規定がないので、行政不服審査法における不服申立てにするか行政事件訴訟における訴えの提起にするかは自由選択主義です。
もっとも、情報公開制度においては、通常の行政不服審査法にはない特色があるのです。
情報開示決定等に対して、不服申立てした場合、情報公開・個人情報保護審査会に対して、諮問をし、答申を得た上で、審査庁(処分庁)が裁決(決定)をする必要があります。
ですから、通常の不服申立にはない情報公開・個人情報保護審査会に対する諮問・答申が必要とされているのです。
もっとも、行政不服審査法に基づく不服申立あるいは訴訟に対して最終的に判断するのは、あくまでも処分庁や審査庁です。
それゆえ、情報公開・個人情報保護審査会の判断には法的拘束力はなく、あくまでも行政に意見する諮問機関にすぎないのです。
以上より、情報公開・個人情報保護審査会に対して審査請求をすることができるのではなく、あくまでも行政庁に対して審査請求し、情報公開・個人情報保護審査会は、あくまでも行政に意見する諮問機関にすぎないのです。
なお、訴訟を提起した場合、情報公開・個人情報保護審査会に対する諮問・答申は必要ではないです。
肢2 誤 肢3 誤
義務付け訴訟には2種類ありますが、どちらの場合も、行政庁の不作為があることが前提となっています(行政事件訴訟法3条6号)。本肢では、消費者庁長官が不開示決定をしていますので不作為はありません。ですから、処分取消訴訟をすべきなのです。また、処分取消訴訟の被告は行政庁ではなく、国
となります(行政事件訴訟法11条)。
そして、仮の義務付け訴訟は、義務付け訴訟が提起されていることが前提ですので、義務付け訴訟を提起できない以上仮の義務付け訴訟も提起できません。よって、誤りです。
【3条6号】
1.行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
2.行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
【第37条の5】
1 義務付けの訴えの提起があつた場合において、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずること(以下この条において「仮の義務付け」という。)ができる。
肢4 正
行政事件訴訟法においては第三者が訴訟に参加することができます(行政事件訴訟法22条)。
つまり、処分の取消や維持の判決によって、直接自己の権利利益に実質的な不利益を蒙る者も訴訟に参加することができるのです。このような不利益を蒙る者も訴訟に参加させることで紛争を一挙に解決することができるからです。
この場合、裁判所は、第三者の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その第三者を訴訟に参加させることができ、この決定をするには、あらかじめ、当事者及び第三者の意見をきかなければならないとされています。
第三者の申立てにより参加する場合、当事者にとっても誰が参加してくるのかによって訴訟の仕方が変わってくるのであらかじめ当事者の意見を聞く必要があるのです。
また、職権で第三者を訴訟に参加させる場合、第三者を強制的に参加させることになるのであらかじめ第三者の意見をきかなければならないのです。
【第22条】
1 裁判所は、訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは、当事者若しくはその第三者の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その第三者を訴訟に参加させることができる。
2 裁判所は、前項の決定をするには、あらかじめ、当事者及び第三者の意見をきかなければならない。
肢5 誤
インカメラ審理に関する問題です。
インカメラ審理とは、情報公開・個人情報保護審査会が、必要がある場合に、諮問してきた審査庁(処分庁)に対し、不服申立てのあった決定に係る公文書を提示させ、審査会委員のみが実際に当該公文書を見分して審議することをいいます。
これにより、開示不開示の判断が違法・不当でないかなどについて秘密漏洩を防止しつつ適正・迅速に判断することが可能となります。
ですから、情報公開・個人情報保護審査会には、インカメラ審理の権限が認められているのです。
審査会委員のみが内容をみることができるので、何人も、審査会に対し、その提示された行政文書等又は保有個人情報の開示を求めることができないのです。
また、諮問庁は、審査会からインカメラ審理の求めがあったときは、これを拒んではならないとされています。
これに対して、情報公開訴訟において、このインカメラ審理は認められていません。
インカメラ審理の導入は、裁判の公開を保障する憲法82 条と事実と証拠をつき合わせて結論を出す民事訴訟の基本原則に抵触する可能性があるからです。
つまり、公開してよいかどうかがわからない文書等を訴訟の場で公開されれば、情報公開法の不開示決定の意味がなくなるからです。