民法 総則 (H24-27)
権利能力、制限行為能力および意思能力に関する次の記述のうち、民法および判例に照らし、妥当なものはどれか。
1 胎児に対する不法行為に基づく当該胎児の損害賠償請求権については、胎児は既に生まれたものとみなされるので、胎児の母は、胎児の出生前に胎児を代理して不法行為の加害者に対し損害賠償請求をすることができる。
2 失踪の宣告を受けた者は、死亡したものとみなされ、権利能力を喪失するため、生存することの証明がなされ失踪の宣告が取り消された場合でも、失踪の宣告後その取消し前になされた行為はすべて効力を生じない。
3 成年後見人は、正当な事由があるときは、成年被後見人の許諾を得て、その任務を辞することができるが、正当な事由がないときでも、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
4 成年被後見人の法律行為について、成年後見人は、これを取り消し、または追認することができるが、成年被後見人は、事理弁識能力を欠く常況にあるため、後見開始の審判が取り消されない限り、これを取り消し、または追認することはできない。
5 後見開始の審判を受ける前の法律行為については、制限行為能力を理由として当該法律行為を取り消すことはできないが、その者が当該法律行為の時に意思能力を有しないときは、意思能力の不存在を立証して当該法律行為の無効を主張することができる。
解答 5
1 誤
本問のポイントは、「胎児の母は、胎児の出生前に胎児を代理して」の部分です。
胎児には権利能力はなく、私権の享有主体にはなれないはずです。
しかし、①損害賠償請求権(721条)、②相続(886条)、③遺贈(965条)についてはすでに生まれたものとみなされます。
もっとも、胎児は、生きて生まれてくることを停止条件として、権利能力を有するので生きて生まれてくるまでは、条件成就未定であるため、胎児は損害賠償請求権を行使できません。生きて生まれてきたときに初めて、損害賠償請求権を行使できることになります。
ですから、胎児の母は、胎児の出生前に胎児を代理して損害賠償請求をすることができず、子の出生後に、その子を代理して損害賠償請求をすることができるのです。
このように、条件成就の時期と権利の発生時期がずれるのです。
出生という条件が成就した瞬間に、相続、遺贈、不法行為についての権利は、胎児のとき(相続開始時、不法行為時)に遡及して発生するということです。
2 誤
本問のポイントは、「失踪の宣告後その取消し前になされた行為はすべて効力を生じない。」
失踪者が生きていることがわかった場合、失踪宣告の取消によって、原則として、失踪宣告は当初からなかったことになり、遡及的に消滅します。そのため、失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失います(32条2項本文)。
もっとも、例外として失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさないのです。(32条1項後段)。善意でした場合にも効力がないとすると法的安定性を害し不公平だからです。
3 誤
本問のポイントは、前段の「成年被後見人の許諾を得て」という部分、後段の「正当な事由がないときでも」という部分です。
第844条
後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。この第844条からすると、前段も後段も誤っていることは明らかですね。
4 誤
本問のポイントは、「成年被後見人は、・・・これを取り消し、または追認することはできない。」の部分です。
第120条1項
行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
この条文の通り、制限行為能力者本人も取り消すことができます。制限行為能力者本人を保護する制度だからです。
5 正
後見開始の審判を受ける前は、制限行為能力者ではないので、受ける前の法律行為については、制限行為能力を理由として当該法律行為を取り消すことはできません。また、制限行為能力者かどうかに関係なく、当該法律行為の時に意思能力を有しないときは、意思能力の不存在を立証して当該法律行為の無効を主張することができます。
後段は、制限行為能力者制度の趣旨を考えればわかるでしょう。
民法は意思能力の有無が契約ごとに個別に判断されることから生じる不都合を回避するため、行為能力という段階の能力を設けたのです。
そして、判断能力が不十分な者を保護するため、制限行為能力者として類型化した上で、それぞれの判断能力に応じて画一的な基準により判断できるようにしたのです。
意思能力のない者による契約は無効とされますが、契約の当事者が事後において行為時に意思能力が無かったことを証明することは非常に困難ですが、証明できるのであれば、当然無効となります。