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行政法 総論 (H25-10)


公法と私法に関する次の記述のうち、法令または最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。


1 公立病院において行われる診療に関する法律関係は、本質上私法関係と解されるので、公立病院の診療に関する債権の消滅時効は、地方自治法の規定ではなく、民法の規定に基づいて判断される。

2 一般職の地方公務員については、その勤務関係が公法的規律に服する公法上の関係であるので、私法的規律である労働三法(労働基準法、労働組合法、労働関係調整法)はすべて適用されない。

3 地方公共団体が事業者との間で締結する公害防止協定については、公法上の契約に該当すると解されるので、根拠となる条例の定めがない限り、当該協定に法的拘束力は生じない。

4 公営住宅の使用関係については、原則として公法関係と解されるので、法令に特別の定めがない限り、民法の規定は適用されない。

5 国の金銭債権は、私法上のものであっても、その消滅時効については、法令に特別の定めがない限り、すべて会計法の規定に基づいて判断される。



解答 1  


肢1 正

本問について、公法関係か私法関係かの区別を知識としてもっている人はほとんどいませんから、この知識を聞いているのであれば、捨て問となるでしょう。ただ、たとえば肢1のように「私法関係であるから」という肢の見解に従って考えると結論がどうなるのかということを聞いているのであれば、それは大原則に従って考えればよいのです。

つまり、肢1では、「公立病院において行われる診療に関する法律関係は、本質上私法関係と解されるので」という見解を仮に正しいとした場合、この肢の結論として「公立病院の診療に関する債権の消滅時効は、民法の規定に基づいて判断される。」という部分が矛盾するかどうかをまず考えて欲しいのです。

そうすると、私法上の債権・債務関係を規律する一般法は、民法ですから、公立病院の診療に関する債権の消滅時効が私法関係であれば、民法の規定に基づいて判断されるというのは正しいのではないかと予測がつくのです。

なお、判例(最判平成17年11月21日)において、「公立病院の診療に関する債権の消滅時効期間は、民法170条1号により3年と解すべきである。」と判示されています。

肢2 誤

これは細かい知識なので知らなかったとしても仕方がない問題です。

憲法でも勉強したように、公務員は、一般国民と異なり、労働基本権が制限されています。公務員の勤務関係は、民間における私企業の労働者の勤務関係とは異なり、公法上の関係となるので、前半部分は正しいです。

国家公務員は、労働三法(労働基準法、労働組合法、労働関係調整法)は「すべて」適用されません。労働三法は、私企業における使用者と労働者とを規律するものであるからです。もっとも、地方公務員は、労働基準法の一部(例:労働基準法102条など)は適用されます。たとえば、イメージとして大企業とその従業者との関係と、一定の市町村とそこに従事する地方公務員とは規模において共通する点があるからです。

本問も、公務員の勤務関係が公法上の関係か、私法上の関係かどうかを聞いているのではなく、公法上の関係にあることを前提として、地方公務員に労働三法という私法上の関係を規律する法律が適用されるかどうかを聞いている問題なのです。

肢3 誤

公害防止協定の法的性質・効力については、紳士協定説と契約説がありますが、判例(最判平成21年7月10日)は契約説をとっています。

そのため、「地方公共団体が事業者との間で締結する公害防止協定については、公法上の契約に該当すると解される」という点は正しいです。

この公害防止協定の法的性質・効力についての知識は難しいので、知らなくても仕方ないでしょう。

公法上の契約であることを前提とすると、法的拘束力があるものを契約と呼ぶ以上、法的拘束力があるのは当然です。

ですから、本問も、公法上の契約かどうかの知識を聞いているのではなく、公法上の契約であるとした場合、法的拘束力があるかどうかを聞いている問題なのです。

肢4 誤

判例(最判昭和59年12月13日)からの出題です。

本問は、公営住宅の使用関係が、公法上の関係か私法上の関係を直接問う問題です。そういう意味で他の4つの肢とは問われる個所が異なっています。ただし、知識として難しいかというと、民法で賃貸借契約や借地借家法を勉強したとおり、公営住宅の使用関係が、民法の賃貸借契約や借地借家法の適用があるかどうかを考えればよいのでそれほど難しくないでしょう。賃貸した経験があれば、たとえば、公営住宅(UR賃貸など)は、事業主つまり貸主が都道府県や市町村であって、借主が個人というものですから、主体が私人間とは異なりますが、契約自体には、民法の賃貸借契約や借地借家法の適用はあるだろうと予測できるでしょう。

判例(最判昭和59年12月13日)は有料講座に譲ります。

肢5 誤

 本問も肢1と同じ問われ方です。

 国の金銭債権は、私法上のものであるか公法上のものかどうかは聞いていません。

国の金銭債権が、私法上のものであることを前提に、その消滅時効については、公法である会計法(国による歳入徴収、支出、契約等について規定した日本の法律)なのか、それとも民法によって規律されるのかどうかを聞いている問題なのです。

上記のとおり、私法上の債権・債務関係を規律する一般法は、民法ですから、国の金銭債権が、私法関係であれば、その消滅時効については、民法の規定に基づいて判断されるではないかと予測がつくのです。つまり、肢1と同じことを聞いているにもかかわらず、結論が肢1と肢5とでは異なるのです。ですから、この二つの肢の結論が矛盾していることから、どちらかが正解であるだろうと予測することもできるのです。

以上より、私法上の債権・債務関係を規律する一般法は、民法であるということから正解が導ける問題なのです。

知らない問題が出た場合は、このように大きな視点から判断できないかを頭の隅に置いといてください。




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