行政法 行政事件訴訟法 (H25-14)
行政不服審査法(以下「行審法」という。)と行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)の比較に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
1 行訴法は、行政庁が処分をすべき旨を命ずることを求める訴訟として「義務付けの訴え」を設けているが、行審法は、このような義務付けを求める不服申立てを明示的には定めていない。
2 行審法は、同法にいう処分には公権力の行使に当たる事実上の行為で継続的性質を有するものが含まれると定めているが、行訴法は、このような行為が処分に当たるとは明示的には定めていない。
3 行訴法は、取消訴訟の原告適格を処分等の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に認めているが、行審法は、このような者に不服申立て適格が認められることを明示的には定めていない。
4 行訴法は、訴訟の結果により権利を害される第三者の訴訟参加に関する規定を置いているが、行審法は、利害関係人の不服申立てへの参加について明示的には定めていない。
5 行訴法は、取消訴訟における取消しの理由の制限として、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由とすることはできないと定めているが、行審法は、このような理由の制限を明示的には定めていない。
解答 4
肢1 正
不作為の違法確認訴訟では、違法を確認するだけで、行政庁になんらかの行為を命じることはできません。
そのため、2号義務付け訴訟と併合提起して、行政庁になんらかの行為を命じることができるようにしているのです(行政事件訴訟法第3条6項2号、第36条の3)。
これに対して、不作為に対する不服申立てに対して、認容決定・裁決が出た場合、以下の通り、原則として、不作為庁が申請に対するなんらかの行為をしなければなりません。
これは、行政庁の判断なので、裁判所のように三権分立の問題が生じないからです。
具体的には、不作為に対する異議申立ての場合、不作為庁は、不作為についての異議申立てがあつた日の翌日から起算して二十日以内に、申請に対するなんらかの行為をするか、又は書面で不作為の理由を示さなければならないと規定されています(50条2項)。
また、不作為に対する審査請求の場合、不作為についての審査請求に理由があるときは、審査庁は、当該不作為庁に対しすみやかに申請に対するなんらかの行為をすべきことを命ずるとともに、裁決で、その旨を宣言すると規定されています(51条3項)。
したがって、不作為に対する不服申立てをすれば十分であり、義務付けを求める不服申立てを設ける必要がないのです。
肢2 正
行政不服審査法における行政行為(処分)とは、行政目的達成のため、一方的に国民の権利・自由等を拘束するなどして国民の地位を具体的に決定する行為をいいます。
ですから、単なる事実行為は処分には含まれないはずです。
しかし、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するものは、一方的に国民の自由を拘束する権力的な事実行為なのです。それゆえ、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するものなどの事実行為が行政行為に準じる措置であるとして「処分」に含まれると行政不服審査法で規定されているのです。
これに対して、行政事件訴訟法では処分を「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」と定義し、事実行為については明文で規定されてはいません(行政事件訴訟法第3条2項)。
しかし、通説・判例では同様に行政行為に準じる措置であると考えられています。ですから、行政事件訴訟法における「処分」には、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有する事実行為もその対象となると解されているのです。
そういう意味で、行政不服審査法における「処分」と行政事件訴訟法における「処分」とは同じ意味だと思ってください。
以上のように、行政不服審査法のいう処分には公権力の行使に当たる事実上の行為で継続的性質を有するものが含まれると定めているが、行訴法は、このような行為が処分に当たるとは明示的には定めていないので正しいです。
ただし、両方の「処分」は実質上同じ意味なので行政事件訴訟法における「処分」には、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有する事実行為もその対象となると解されているという点は合わせて押えておきましょう。
肢3 正
まず、行政事件訴訟法においては、同法9条で当事者適格(原告適格)が規定されています。
第9条
1処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
当事者適格とは、当事者能力があることを前提に、特定の争訟において当事者として承認される具体的な地位ないし資格をいいます。
これに対して、行政不服審査法においては、明文上当事者適格は規定されていませんが、解釈上、当事者適格が必要であると考えられています。
違法・不当な処分を取消すことによって、侵害された自己の権利利益の回復が得られる者、つまり不服申立ての利益を有する者だけが異議申立てや審査請求をすることができるのです。
このような利益を法律上の利益といい、法律上の利益を有する者でなければ不服申立てをすることができないのです。
例えば、不利益処分を受けた者は、原則として当事者適格を有します。
これにより、不服申立てをすることができる主体が絞られることになりますね。当事者適格があって初めて不服申立てをすることができ、なければ却下されるのです。
肢4 誤
行政不服審査法においても参加人という制度があります(24条1項)。
不服申立てをすることができるのが、処分された当事者であるのは当然です。
当事者のみならず処分の取消や維持によって、直接自己の権利利益に実質的な不利益を蒙る者も不服申立てすることが目的に資するのです。
ですから、このような不利益を蒙る者も利害関係人として審査請求に参加することができるのです。ただし、利害関係人というのはどこまでも拡大していく可能性がありますから、本当に利害関係人かどうか確認する必要があります。そのため、審査請求に参加する場合は、原則として審査庁の許可を得る必要があるのです。
したがって、不服申立てを審査する行政庁は、申請した利害関係人に、参加人として不服申立てに参加することを許可する権限を有するのです。
これに対して、行政事件訴訟法においても第三者が訴訟に参加することができます(22条)。
つまり、処分の取消や維持の判決によって、直接自己の権利利益に実質的な不利益を蒙る者も訴訟に参加することができるのです。このような不利益を蒙る者も訴訟に参加させることで紛争を一挙に解決することができるからです。
この場合、裁判所は、第三者の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その第三者を訴訟に参加させることができ、この決定をするには、あらかじめ、当事者及び第三者の意見をきかなければならないとされています。
このように、両方の法律において参加人について規定がされているので誤りです。
肢5 正
行政事件訴訟法において取消しの理由の制限が規定されています。
第10条1項
取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。
これに対して、行政不服審査法にはこのような規定はありません。行政不服審査法では処分の不当性が問題となるからです。