民法 債権 (H25-33)
A、B、C、D、Eの5人が、各自で出資をして共同の事業を営むことを約して組合を設立した場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、正しいものはどれか。
1 Aは、組合の常務について単独で行うことはできず、総組合員の過半数の賛成が必要であるから、Aのほか2人以上の組合員の賛成を得た上で行わなければならない。
2 組合契約でA、B、Cの3人を業務執行者とした場合には、組合の業務の執行は、A、B、C全員の合意で決しなければならず、AとBだけの合意では決することはできない。
3 組合契約で組合の存続期間を定めない場合に、Aは、やむを得ない事由があっても、組合に不利な時期に脱退することはできない。
4 やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約がある場合に、Aは、適任者を推薦しない限り当該組合を脱退することはできない。
5 組合財産に属する特定の不動産について、第三者が不法な保存登記をした場合に、Aは、単独で当該第三者に対して抹消登記請求をすることができる。
解答 5
組合というマイナー分野からの出題ですが、組合も共有と類似するものであることを思い出していただければ、正解肢にたどり着けたのではないでしょうか。
1 誤 2 誤
肢1と2は、組合の業務執行に関する条文問題です。
第670条
1 組合の業務の執行は、組合員の過半数で決する。
2 前項の業務の執行は、組合契約でこれを委任した者(次項において「業務執行者」という。)が数人あるときは、その過半数で決する。
3 組合の常務は、前2項の規定にかかわらず、各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる。ただし、その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは、この限りでない。
上記670条3項からわかるとおり、 組合の常務(その組合の目的遂行のために普通になすべき業務で特別に重要でないもの)は、原則として各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができます。
したがって、Aは、組合の常務について単独で行うことができるのです。よって、肢1は誤りです。
また、670条1項からわかるとおり、組合の業務の執行は、組合員の過半数で決するのが原則です。
そして、2項からわかるとおり、組合員の人数が多くて全員で業務執行をすることができない場合などには、業務執行者を選んで業務執行を委任することができます。組合の業務の執行は、業務執行者が数人あるときは、その過半数で決することから、組合の業務の執行は、業務執行者3人のうちAとBの合意で決することができるのです。よって、肢2は誤りです。
3 誤 4 誤
肢3と4は、組合の脱退(678条1項)に関する問題です。
第678条1項
組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。
組合財産は合有なので、潜在的な持分しかなく、組合員は、自由に持分を処分することができないのです。
その代わりに脱退することで出資した投下資本を回収することができます。
脱退しなければ、自己の出資分を払い戻すことができないので、脱退によって持分が顕在化するという意味で、組合員の持分は潜在的持分といわれているのです。
ですから、各組合員は、原則として、いつでも脱退することができるのです。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができないのです。逆に言うと、やむを得ない事由があれば、組合に不利な時期であっても脱退することができるのです。
よって、肢3は誤りです。
また、上記の通り、組合契約では、持分の譲渡ではなく脱退することで出資した投下資本を回収するので、この脱退の規定は強行規定と解されています。ですから、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約は無効なのです。よって、肢4は誤りです。
5 正
組合契約の性質は合有ですが、同じ共同所有の一形態であるため共有と共通する点もあります。そのため、組合のところ(667条以下)で特に規定されていないものは、共有の規定(249条以下)が適用されると解されています(判例)。そのため、252条の共有物の管理の規定も適用されます。
(共有物の管理)
第252条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
252条但書からもわかるとおり、保存行為は各共有者が単独ですることができます。
したがって、組合財産に属する特定の不動産について、第三者が不法な保存登記をした場合に、これを放置すれば組合財産に損害をもたらすのでAは、保存行為として単独で当該第三者に対して抹消登記請求をすることができるのです。