民法 債権 (H25-34)
Aは、配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、正しいものはどれか。
1 甲建物がAからBに引き渡されていない場合に、A・B間の贈与が書面によってなされたときには、Aは、Bからの引渡請求を拒むことはできない。
2 甲建物が未登記建物である場合において、Aが甲建物をBに引き渡したときには、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することはできない。
3 甲建物が未登記建物である場合において、Aが甲建物をBに引き渡した後に同建物についてA名義の保存登記をしたときには、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することができる。
4 A名義の登記がなされた甲建物がBに引き渡されたときには、Aは、Bからの甲建物についての移転登記請求を拒むことはできない。
5 贈与契約のいきさつにおいて、Aの不法性がBの不法性に比してきわめて微弱なものであっても、Aが未登記建物である甲建物をBに引き渡したときには、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することはできない。
解答 2
不当利得における不法原因給付(708条)に関する問題です。基本的な「給付」の論点についての問題なので是非とも正解したい問題です。
1 誤 2 正 3 誤 4 誤
肢1~4までは「給付」の論点についての問題です。
例えば、殺人の請負契約、愛人契約などは公序良俗に違反する契約であるから無効となります(90条)。
無効であるため法律上の原因がないので不当利得返還請求できるはずです。
しかし、このような自ら社会的に非難されるべき行為によってなされた給付は、不当利得の要件を満たしていても返還請求ができないとすることが公平なのです。
これを不法原因給付といい、裁判所は不法な請求には助力しないというクリーンハンズ「きれいな手」の法理の表れです。
90条と表裏一体となって、反社会的な行為をした者に対して一切の法的救済を与えない法理を定めたものなのです。
ですから、殺人請負契約で前金を渡していた場合、契約は公序良俗違反で無効となりますが、その前金を不当利得によって返還請求することはできないのです。
この不法原因給付における「給付」とは履行の余地を残さない終局的なものでなければならないとされています。
判例 では、例えば、本問のような愛人関係の存続を目的にした登記済不動産の贈与においては、引渡しを済ませたというだけでは足りず、登記名義までをも受贈者に移転しなければならないとされています。
また、動産や未登記不動産なら引渡して初めて「給付」となります。
これは「給付」となる段階を遅らせることで、給付の中途で後戻りを認めることにより不法な行為をできるだけ抑止することができるからです。以上を前提に、各肢をみていきます。
肢1は、甲建物が未登記不動産かどうかわかりませんが、まだ引き渡されてもおらず、また登記もされていませんので「給付」にあたりません。
「給付」に当たらない以上、不法原因給付になりません。
したがって、愛人関係の存続を目的にした贈与契約は、公序良俗に反して無効であるとして引渡しを拒むことができます。
肢2、肢3はどちらも未登記不動産ですから、引渡しを終えれば「給付」となります。
肢2も肢3も、引渡しを終えているため「給付」にあたるので、不法原因給付としてAは、Bに対して甲建物の返還を請求することはできません。
よって、肢2は正しく、肢3は誤りです。
肢4は、登記不動産なので登記が必要であるところ、いまだ登記がされていない以上、「給付」にあたらず不法原因給付とはなりません。したがって、Aは、Bからの甲建物についての移転登記請求を拒むことができるのです。
5 誤
(708条但書)に関する問題です。
不法な原因が受益者についてのみある場合は、例外的に返還請求することができます(708条但書)。
例えば、受益者に何度も愛人契約を結び、不動産を引渡すように迫られ、結ばなければ、妻に全てを告げるなどと半ば脅されたような状況の下で、仕方なく未登記不動産を引渡したような場合は、受益者についてのみ不法な原因があるといえるので、給付者は、返還請求することができるのです。
したがて、本問において、Aの不法性がBの不法性に比してきわめて微弱なものであれば、受益者であるBについてのみ不法な原因があるといえるので、Aが未登記建物である甲建物をBに引き渡したときであっても、Aは、Bに対して甲建物の返還を請求することができるのです。