行政法 総論 (H25-8)
行政庁の裁量に関する次のア~エの記述に関して、最高裁判所の判例に照らし、その正誤を正しく示す組合せはどれか。
ア 地方公共団体が指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり、地元の経済の活性化にも寄与することを考慮して地元企業を優先的に指名することは、合理的な裁量権の行使として許容される。
イ 地方公共団体が第三セクター法人の事業に関して当該法人の債権者と損失補償契約を結んだ場合、当該契約の適法性、有効性は、契約締結に係る公益上の必要性についての長の判断に裁量権の逸脱、濫用があったか否かによって判断される。
ウ 道路運送法に基づく一般乗用旅客自動車運送事業(いわゆるタクシー事業)の許可について、その許可基準が抽象的、概括的なものであるとしても、判断に際して行政庁の専門技術的な知識経験や公益上の判断を必要としないことから、行政庁に裁量は認められない。
エ 水道法15条1項 * にいう「正当の理由」の判断に関して、水道事業者たる地方公共団体の長が近い将来における水不足が確実に予見されることを理由として給水契約の締結を拒絶することは、裁量権の逸脱、濫用として違法となる。
ア イ ウ エ
1. 正 誤 正 誤
2. 誤 正 正 誤
3. 正 誤 正 正
4. 正 正 誤 誤
5. 誤 誤 誤 正
(注)* 水道法15条1項
水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。
解答 4
判例からの出題なので少し細かいところですが、肢ウとエは常識的に正解できると思うので結果的には正答率はそれほど低くはないでしょう。
行政の自由裁量については、原則として行政の判断が尊重され、裁判所の審査は及びません。
しかし、行政の自由裁量によって裁量権の著しい逸脱や濫用があった場合は違法であり、裁判所の審査に服することになります。
どのような場合に裁量権の逸脱や濫用になるかについては、具体的な事案によって判断が異なります。判例は有料講座の方に譲ります。
肢ア 正
判例(平成18年10月26日)からの出題です。
この問題では、判例の「地方公共団体は、地元企業を優先的に指名することは、合理的な裁量権の行使として許容される。」という部分が出題されています。
これはこれで正しいので覚えるしかないのですが、この判例で重要なのはこの部分ではありません。むしろ判例の「(地元企業である)村内業者のみを指名するという運用について,常に合理性があり裁量権の範囲内であるということはできない。」という部分が重要なので合わせて押えておきましょう。行政裁量の平等原則からするとできるだけ地元企業とそれ以外の企業を平等に扱うという点が重要です。
肢イ 正
これも判例(最判平成23年10月27日)からの出題です。本問部分を知らなくてもかまいません。行政裁量に関する判例の知識として問うというのは少し細かいと思います。そういう意味でも肢ウとエが誤りだとわかれば良い問題です。
肢ウ 誤
これも判例(最判昭和50年5月29日)ですが、この判例を知らなくても許可基準が抽象的、概括的なものであればあるほど、行政庁が具体的な判断を専門的な知見からする必要があります。そのためにも行政庁に裁量がなければなりません。
したがって、誤りとなります。
肢エ 誤
行政契約のところでも勉強した水道法15条1項からの出題です。
(給水義務)
第15条
水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。
水道については、生活に不可欠なものですから継続的かつ安定的に給付されなければなりません。
ですから、正当な理由がないかぎり、拒絶することは出来ません。
この場合の「正当な理由」とは、料金の不払いや本問のように近い将来における水不足が確実に予見される場合(最判平成11年1月21日)などです。
判例を知らなくても常識的に考えれば、このような水不足で拒絶することが裁量権の逸脱・濫用となるのは妥当でないとわかるでしょう。
以上より、このよう正当な理由があれば給水契約の締結を拒絶しても、裁量権の逸脱、濫用として違法となりません。