行政法 総論 (H26-10)
行政調査に関する次のア~エの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。争いがある場合には最高裁判所の判例の立場による。
ア 行政手続法には、行政調査の手続に関する通則的な規定は置かれておらず、また、同法は、情報収集を直接の目的とする処分・行政指導には適用されない。
イ 警察官職務執行法上の職務質問に付随して行う所持品検査は、検査の必要性、緊急性の認められる場合には、相手方への強制にわたるものであっても適法である。
ウ 法律の規定を設ければ、行政調査に応じなかったことを理由として、刑罰を科すなど、相手方に不利益を課すことも許される。
エ 税務調査(質問検査権)に関しては、国税通則法により、急速を要する場合を除き、事前に裁判官の許可を得ることが必要とされている。
1 ア・イ
2 ア・ウ
3 イ・ウ
4 イ・エ
5 ウ・エ
解答 2
本問は選択肢が4つしかない組合せ問題であり、内容も過去問(H20-26)
の類似問題なので絶対に落としてはならない問題です。
テキストP63~69 類似問題 過去問(H20-26)
ア 正
行政手続法第1条
この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第46条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
上記の条文にあるとおり、行政手続法が適用されるのは、(処分、行政指導、届出)に関する手続および命令等を定める手続なので、行政調査の手続に関する通則的な規定は置かれていません。
また、行政指導に関する手続は適用されますが、行政指導であれば全て適用されるのではなく、適用除外があります(3条)。
3条1項14号
報告又は物件の提出を命ずる処分その他その職務の遂行上必要な情報の収集を直接の目的としてされる処分及び行政指導
少し細かいところですが、押えておきましょう。
イ 誤
職務質問に付随して行う所持品検査は、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである(最判昭和53年6月20日)。したがって、相手方への強制にわたるものであれば違法となります。
ウ 正
行政調査には、あまり強制調査は多くはないですが、例えば、国税犯則取締法2条による臨検・捜索・差押えの犯則調査などがあります。
多くは法律に定められており、罰則の規定があります。
これを、間接強制を伴う調査といいます。
罰則の規定があることによって、間接的に協力を強制することになりますが、相手方の抵抗を排除しても行うわけではないので強制調査とは異なります。
エ 誤
川崎民商事件(最判昭和47年11月22日)をベースにした出題です。
【事実の概要】
『川崎民主商工会の会員Xは、税務署による税務調査にあたり、税務職員の質問検査に抵抗してこれを拒んだところ、旧所得税法70条10号に違反するとして起訴され第1審、第2審ともに有罪となったため、Xは、質問検査は刑罰により強制されているにもかかわらず裁判所の令状を必要としていないことが憲法35条に違反し、また憲法38条の黙秘権の保障も及ぶとして上告した事件』
【判旨】
「収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴うものであるが、同法六三条所定の収税官吏の検査は、もっぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であって、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない。」
この判例から、収税官吏の検査は、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であって、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではないのです。
ですから、行政調査である収税官吏の検査については、憲法35条における令状主義は適用されず、裁判官の令状がなくてもすることができるのです。
以上の判例からもわかるとおり、税務調査(質問検査権)は、刑事責任追及を目的とする手続ではないため、事前の裁判官の許可にあたる令状は不要なのです。