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民法 総則 (H26-28)


Aが自己所有の甲土地をBに売却する旨の契約(以下、「本件売買契約」という。)が締結された。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。


1 AはBの強迫によって本件売買契約を締結したが、その後もBに対する畏怖の状態が続いたので取消しの意思表示をしないまま10年が経過した。このような場合であっても、AはBの強迫を理由としで本件売買契約を取り消すことができる。

2 AがBの詐欺を理由として本件売買契約を取り消したが、甲土地はすでにCに転売されていた。この場合において、CがAに対して甲土地の所有権の取得を主張するためには、Cは、Bの詐欺につき知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなく、また、対抗要件を備えていなければならない。

3 AがDの強迫によって本件売買契約を締結した場合、この事実をBが知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなかったときは、AはDの強迫を理由として本件売買契約を取り消すことができない。

4 AがEの詐欺によって本件売買契約を締結した場合、この事実をBが知っていたとき、または知らなかったことにつき過失があったときは、AはEの詐欺を理由として本件売買契約を取り消すことができる。

5 Aは未成年者であったが、その旨をBに告げずに本件売買契約を締結した場合、制限行為能力者であることの黙秘は詐術にあたるため、Aは未成年者であることを理由として本件売買契約を取り消すことはできない。



解答 1


意思表示に関する基本的な問題なので是非とも正解していただきたい問題です。


テキストP39~40、99~106  類似過去問平成8年度問題27



肢1 正  肢3 誤

強迫による意思表示に関する問題です。

まず、肢1です、強迫を取消す場合の要件についての問題です。

第126条 

取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

 いつまでも契約などを取消できるとするのは、相手方の地位を不安定にさせるので、除斥期間を定めているのです。

 除斥期間とは、法律関係を速やかに確定させるため、一定期間の経過によって将来に向かって権利を消滅させる制度をいいます。

126条の取消権の場合は、追認可能時から5年、行為の時から20年となっています。

そして、追認できるときとは、詐欺・強迫の場合は、その状況から脱したときでなければ、自由で正常な判断ができないため、その時から追認ができるようになります(124条1項)。本肢については、強迫から10年経っていてもBに対する畏怖の状態が続いたので、まだその状況から脱していません。

ですから、まだ追認可能なときとはいえず、取消すことができないのです。

よって、正しいです。

次に肢3ですが、これは第三者による強迫です。肢4の第三者による詐欺と異なり、何ら要件無しに取消すことができるのです。

このような違いがあるのは、詐欺よりも強迫の方が意思表示をさせる手段として悪質だからです。ですから、強迫された被害者を徹底的に保護することの方が公平だと考えられているのです。

肢2 誤  肢4 誤

詐欺による意思表示に関する問題です。

まず肢4ですが、これは第三者による詐欺です。

このような事例の解決方法を規定しているのが、96条2項です。

このような場合、AとBの契約は意思と表示が一致しているので、原則として有効です。

しかし、EがAを騙して契約させたことについて、Bが知っていたならば、ある意味BはE側の人間であり、積極的に騙してはいなくても、それを相手に告げずに契約しているので、消極的には騙していることと変りありません。

そのため、公平の見地から、Bが第三者の詐欺についての事情を知っているならば、その限りにおいて、Aは契約を取り消すことができるのです。

条文上も、「相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。」として、悪意の場合に限定して例外的に取消を認めていることに注意しましょう。

したがって、Bが知っていたときは、AはEの詐欺を理由として本件売買契約を取り消すことができるが、Bが知らなかったことにつき過失があったときは、原則どおり契約は有効となるのです。

契約は有効となるのが大原則であり、契約当事者であるB自身が騙しているわけでもないからです。

よって、この場合、AはEの詐欺を理由として本件売買契約を取り消すことはできず誤りとなります。

次に肢2ですが、これは96条3項の問題です。

Cは事情を知らずに通常の取引をしたものです。

AB間に詐欺行為がなされたことなどを知る由もないのが通常でしょう。

これに対して、Aは詐欺の被害者であるものの、騙された点に落ち度があります。そのため、この場合は、善意の第三者を保護するほうが公平であると民法は規定したのです。この場合、第三者の保護要件は、94条2項と同様に「善意」だけで足り、無過失は不要です。また、第三者は登記をしている必要もありません。よって、肢2は誤りです。

肢5 誤

第21条 

制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。

「詐術」を用いたこととは、原則として、行為能力者であると誤信させるような陳述をしたことが必要なので単に制限能力者であることを黙っていただけでは「詐術」に当たりません。

なお、判例では、制限行為能力者であることを黙秘している場合であっても、それが制限行為能力者の他の言動などとあいまって、相手方を誤信させ、又は誤信を強めたと認められるときには「詐術」にあたるとされています。

したがって、本肢のような単なる黙秘は詐術にあたらないため、Aは未成年者であることを理由として本件売買契約を取り消すことができるのです。



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