民法 物権 (H26-29)
A、BおよびCは費用を出し合って、別荘地である甲土地および同地上に築造された乙建物を購入し、持分割合を均等として共有名義での所有権移転登記を行った。この場合に関する以下の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものの組合せはどれか。
ア 甲土地および乙建物にかかる管理費用について、AおよびBはそれぞれの負担部分を支払ったが、資産状況が悪化したCはその負担に応じないため、AおよびBが折半してCの負担部分を支払った。この場合、Cが負担に応ずべき時から1年以内に負担に応じない場合には、AおよびBは、相当の償金を支払ってCの持分を取得することができる。
イ Cが甲土地および乙建物にかかる自己の持分をDに譲渡し、その旨の登記がなされたが、CD間の譲渡契約は錯誤により無効であった。この場合、AおよびBは、自己の持分が害されているわけではないので、単独でDに対してCD間の移転登記の抹消を求めることはできない。
ウ 甲土地に隣接する丙土地について、甲土地からの観望を損ねるようなエ作物を築造しないことを内容とする地役権が設定され、登記されていた。この場合、Aは、自己の持分については、単独で同地役権を消滅させることができるが、同地役権の全部を消滅させることはできない。
エ Cには相続人となるべき者はなく、内縁の妻Eと共に生活していたところ、Cが死亡した。この場合、甲土地および乙建物にかかるCの持分は、特別縁故者に当たるEに分与されないことが確定した後でなければ、他の共有者であるAおよびBに帰属しない。
オ Cの債務を担保するため、A、BおよびCが、各人の甲土地にかかる持分につき、Cの債権者Fのために共同抵当権を設定していたところ、抵当権が実行され、Gが全ての持分を競落した。この場合には、乙建物のために法定地上権が成立する。
1 ア・イ
2 ア・エ
3 ア・オ
4 イ・ウ
5 ウ・エ
解答 4
マイナーな分野からの出題ですが、組合せ問題であり、また基本的な条文知識問題ですので是非とも正解したいところです。
テキストP320~322
肢ア 正
第253条からの出題です。
第253条
1 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が1年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
共有者が共有物について保存、変更、管理権限を有するということは、それらにかかる費用を持分に応じて負担するのは当然のことです。
一物一権主義の原則を維持するため、単独所有とする方が、法律関係が複雑化しないので、できれば共有状態というのは解消した方が望ましいと考えられています。
そのため、本問のように他の共有者が1年以内に費用負担の義務を履行しない場合、共有者ABが相当の賞金を支払うことで他の共有者Cの持ち分を強制的に取得できるとされています。
こうすれば共有状態が少しでも解消されることになるのです。
肢イ 誤
共有物の抹消登記は保存行為です。
保存行為というのは、共有物の現状を維持する行為をいいます(252条但書)。ですから、他の共有者の利益になっても不利益となる行為ではありません。そのため、保存行為は単独ですることができます。
その他には、例えば、侵害に対する妨害排除請求、不法占有者に対する返還請求、共有物の修繕などが具体例としてあげられます。
肢ウ 誤
第282条1項からの出題です。
第282条
1 土地の共有者の一人は、その持分につき、その土地のために又はその土地について存する地役権を消滅させることができない。
本来、地役権も物権なので共有関係にある場合、所有権と同様に自己の持分について地役権を放棄するなどして消滅させることができるはずです。
しかし、地役権は、人ではなく要役地という土地の便宜のために存在する権利なので、できるだけ取得しやすく、消滅しにくい権利として規定されています。それが地役権の不可分性です。
そのため、自己の持分についてのみ地役権を消滅させることはできません。地役権は共有者の一人のためにあるのではなく、土地を利用する者全ての便益のために存在するからです。
肢エ 正
共有者(255条)と特別縁故者(958条の2)における相続財産の帰属の優先関係に関する判例からの出題です。255条からすると、他に相続人がいない場合、内縁の妻は相続人ではないので、その持分は、他の共有者に帰属するとも思えます。
しかし、内縁の妻のような特別縁故者、つまり相続人と生計を同じくし、療養看護をしてきた者がいれば、そのような者の相続財産に対する期待を保護すべきです。他人である単なる共有者よりも、事実上夫婦同然の共同生活してきた内縁の妻に財産を残してあげたいというのが被相続人の意思に近いでしょう。そこで、他に相続人がいない場合、このような特別縁故者がいるときは、共有者への持分帰属(255条)よりも特別縁故者(958条の2)における相続財産の帰属を優先すると判決されたのです。
特別縁故者>共有者ということを押えておきましょう。
肢オ 正
法定地上権を発生させるために、成立要件は以下の4つとなります。
(1) 抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること
(2) 土地・建物の一方または双方に抵当権が設定されたこと
(3) 抵当権設定当時、土地と建物の所有者が同一であること
(4) 抵当権実行により土地・建物の所有者が異なったこと
問題文から、(1)抵当権設定当時、土地の上に建物が存在し、(2)土地に抵当権が設定されているので(1)と(2)の要件は満たします。
また、A、BおよびCが抵当権設定当時、土地と建物の所有者であり、同一であり、(3)の要件は満たします。
抵当権実行により土地はGが所有者となり、建物の所有者はA、BおよびCがであるため、土地と建物の所有者は異なっているため(4)の要件も満たします。
よって、法定地上権が成立します。