民法 債権 (H26-32)
債務引受および契約上の地位の譲渡(契約譲渡)に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア 免責的債務引受は、債権者と引受人のみの契約でなすことはできず、債務者(原債務者)を含む三者間の契約でしなければならない。
イ 併存的(重畳的)債務引受は、債務者(原債務者)の意思に反しても、債権者と引受人のみの契約でなすことができる。
ウ 併存的(重畳的)債務引受があった場合、別段の意思表示がないときは、債務者(原債務者)と引受人は、債権者に対し、それぞれ等しい割合で分割債務を負う。
エ 売主の地位や買主の地位の譲渡は、当該売買契約の相手方の承諾がないときは、その相手方に対して効力を生じない。
オ 賃貸借の目的となっている不動産の所有者がその所有権とともに賃貸人の地位を他に譲渡することは、賃貸人の義務の移転を伴うから、賃借人の承諾を必要とし、新旧所有者間の契約ですることはできない。
1 ア・ウ
2 ア・オ
3 イ・ウ
4 イ・エ
5 エ・オ
解答 4
債務引受けという今まで出題実績がないところですが、合格ファームのテキストや演習問題では解説してありましたし、組合せ問題なので消去法で是非とも正解していただきたかった問題です。
テキストP536~538など
肢ア 誤
免責的債務引受とは、債務が債務者から引受人に移転して、従来の債務者は債務を免れる引受け形態です。
例えば、BがAに対して貸金債務を負っている場合に、契約によりCがその債務を引受け、Bが債務者ではなくなる場合などです。
この免責的債務引受の契約方法には3種類あります。
第一は、①債務者、債権者、引受人の三面契約による方法です。
全員の合意による契約です。
第二に、②債権者と引受人の二者間の契約による方法です。
もっとも、債務者の関与しないところでの契約なので、債務者の意思に反しない限り、債権者と引受人との間の契約は有効となります。
第三に、③債務者および引受人間の契約でもすることができます。
ただし、債権者が関与しないので、債権者の承諾が必要となります。
債務者の資力というのは、日々変動するものだからです。
以上より、免責的債務引受の契約方法には3種類あるので誤りとなります。
肢イ 正 肢ウ 誤
併存的債務引受とは、引受人は債務者と共に同一内容の債務を負担し、債務者と引受人は連帯債務の関係となる引受け形態です。
従来の債務者がそのままいるので、債務者の交代ではなく債務者の追加が併存的債務引受です。
併存的債務引受の場合も契約方法には3種類あります。
第一は、①債務者、債権者、引受人の三面契約による方法です。全員の合意による契約です。
第二に、②債権者と引受人の二者間の契約による方法です。
この場合、免責的債務引受と異なり、従来の債務者は依然として債務者として債務を負っているので債務者の意思に反しても契約することができます。
第三に、債務者および引受人間の契約でもすることができます。
ただし、債務者が一人増えて債権が強化され債権者の利益となる契約なので、第三者のためにする契約(537条)として、債権者の受益の意思表示が必要となります。債権者の利益になるからといって、利益を無理やり押し付けるのは妥当でないからです。
以上より、債務者の意思に反しても、債権者と引受人のみの契約でなすことができる点で、肢イは正しいです。また、債務者と引受人は、債権者に対し、それぞれ等しい割合で分割債務を負うのではなく、連帯債務を負う点で肢ウは誤りです。
肢エ 正
売主の地位や買主の地位の譲渡のことを、契約上の地位の譲渡(契約上の地位の移転)といいます。
契約上の地位の譲渡(契約上の地位の移転)とは、契約を締結することにより発生する契約当事者としての包括的な地位を、合意によって、第三者に移転させることをいいます。契約の相手方にとっては当初の契約の当事者が変更されるわけですから、原則として契約の相手方の承諾が必要です。
例えば、売主をA、買主をBとする機械の売買契約が成立しているとします。このとき、Aが売主としての地位をCに移転する場合、Bに対する代金支払請求権の他、売買の対象である機械をBに引き渡すという債務も同時に移転することになるのです。この場合、AはCに売主としての地位を譲渡する場合、契約の相手方であるBの承諾なしにはできないということになります。
したがって、当該売買契約の相手方の承諾がないときは、ぞの相手方に対して効力を生じないことになります。よって、正しいです。
肢オ 誤
賃貸人が賃借物の所有権を第三者に移転すると、対抗要件のある賃借物の場合、賃貸人の地位も当然に移転します。
対抗要件がある場合、第三者としては、賃借権付きの所有権であることを知った上で取得しているからです。
これに対して、対抗要件のない賃借物の場合、賃貸人の地位も当然に移転せず移転の特約が必要です。
対抗要件がない場合、第三者としては、賃借権のない所有権を取得していることを期待しているからです。
この賃貸人の地位の移転には、特段の事情の無い限り賃借人の承諾は不要です。
賃借物を使用収益させる債務は、所有者なら誰でも履行できるものなので、賃借人にとって不利益となるものではないからです。
例えば、マンションなどを借りたことがある人ならわかると思いますが、そのマンションのオーナーが変わっても従前の通り使用できるなら問題ないですね。
以上のように、賃貸人の地位の譲渡も、肢エでみた契約上の地位の譲渡の一種ですが、その契約の特殊性から、債務者の承諾が不要となっているのです。