民法 債権 (H26-34)
生命侵害等に対する近親者の損害賠償請求権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
1 他人の不法行為により夫が即死した場合には、その妻は、相続によって夫の逸失利益について損害賠償請求権を行使することはできない。
2 他人の不法行為により夫が死亡した場合には、その妻は、相続によって夫本人の慰謝料請求権を行使できるので、妻には固有の慰謝料請求権は認められていない。
3 他人の不法行為により、夫が慰謝料請求権を行使する意思を表明しないまま死亡した場合には、その妻は、相続によって夫の慰謝料請求権を行使することはできない。
4 他人の不法行為により死亡した被害者の父母、配偶者、子以外の者であっても、被害者との間にそれらの親族と実質的に同視し得る身分関係が存在するため被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた場合には、その者は、加害者に対して直接固有の慰謝料請求をすることができる。
5 他人の不法行為により子が重い傷害を受けたために、当該子が死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛をその両親が受けた場合でも、被害者本人は生存しており本人に慰謝料請求権が認められるので、両親には固有の慰謝料請求権は認められていない。
解答 4
テキストで解説してある不法行為の基本的な問題ですので是非とも正解したいところです。
テキストP722~727
肢1 誤 肢3 誤
即死の場合は、不法行為に基づく損害賠償請求権が発生する時間もなく権利主体が消滅したので、被害者本人には、損害賠償請求権が発生せず、相続人自身の精神的苦痛による慰謝料請求をすることができるだけであるという考え方もあります。
理屈を徹底すると、このようにも考えられますが、結論が公平性を欠き、妥当でないですね。
即死ではなく、1年くらい生存して死んだ場合に、その期間中に被害者本人が不法行為に基づく損害賠償請求をすると言えば損害賠償請求でき、即死であればできないというのは、より重大な事故で即死した被害者と比べて明らかに不公平です。
ですから、即死であっても、事故と死亡との間に一瞬でも観念的な時間の間隔が存在し、また事故の被害者なら不法行為に基づく損害賠償請求するのは当たり前なので、その旨を伝えられなくても当然に発生すると考えられています。
そのため、被害者本人の下で発生した不法行為に基づく損害賠償請求権を相続人が相続し、それを加害者に対して請求することができるのです。
判例も同じような考え方をとっています。
なお、肢3の夫が慰謝料請求権を行使する意思を表明しないまま死亡した場合、例えば、即死の場合や意識不明の状態が継続したような場合でも、財産以外の精神的苦痛による慰謝料請求をすることができます。
709条と710の損害賠償請求は通常両方請求するものなのでセットで覚えておきましょう。
肢2 誤 肢4 正
第711条
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
被害者に対する不法行為により、被害者以外の近親者は何ら財産的な被害を受けていませんが、被害者が死亡したために、近親者(被害者の父母、配偶者および子などの遺族)が受ける精神的苦痛に対する損害賠償権(慰謝料請求権)について規定しています。
例えば、肢2のように交通事故等により夫の生命を奪われた妻が、加害者に対して自己固有の慰謝料請求することができることになります。
被害者の生命侵害について被害者の父母、配偶者および子が慰謝料請求できることを条文上明確にすることで立証責任の負担を軽減しているのです。
つまり、近親者は、被害者の死亡の事実と戸籍などで被害者との関係を証明すれば、精神的損害について立証しなくても損害賠償請求することができるということです。
条文上、近親者の範囲は「被害者の父母、配偶者および子」とされていますが、これは例示列挙であって、それ以外の近親者である祖父母や兄弟姉妹、相続権を有しない内縁の妻なども含まれます。
したがって、肢4は正しいです。
肢5 誤
711条の生命侵害の場合と異なって、怪我などの傷害の場合は、被害者自身が生存していて直接加害者に対して損害賠償請求することができるので、それ以上に近親者の慰謝料請求まで認める必要はないという考え方もあります。
確かに、後遺症の残らないような軽微な怪我であれば、被害者本人からの損害賠償請求だけで十分でしょう。
しかし、例えば、女の子が顔面に生涯残るような怪我をした場合などは、近親者も生命侵害に匹敵するような精神的な苦痛を受けます。
そのため、このような場合は、709条、710条を根拠として近親者の慰謝料請求まで認められると解されています。
なお、判例では、「生命侵害の場合にも比肩(ひけん)しうべき精神上の苦痛を受けたときは損害賠償請求できる」という表現がなされています。判例の言い回しなのでこのまま押えておきましょう。
したがって、肢5の場合、両親には固有の慰謝料請求権は認められるのです。