行政法 総論 (H26-9)
行政立法に関する次のア~オの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、誤っているものはいくつあるか。法令および省庁名は当時のものである。
ア 文部省令が、登録の対象となる文化財的価値のある刀剣類の鑑定基準として、美術品として文化財的価値を有する日本刀に限る旨を定めたことは、銃砲刀剣類所持等取締法の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めたものというべきであるから、これをもって法の委任の趣旨を逸脱する無効のものということはできない。
イ 教科書検定につき、文部大臣が、学校教育法88条*の規定に基づいて、文部省令、文部省告示により、審査の内容及び基準並びに検定の施行細則である検定の手続を定めたことは、法律の委任を欠くとまではいえない。
ウ 児童扶養手当法施行令が、父から認知された婚姻外懐胎児童を児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲から除外したことは、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したものとは認められないので、児童扶養手当法の委任の範囲を逸脱した違法な規定と解することはできない。
エ 地方自治法施行令が、公職の候補者の資格に関する公職選挙法の定めを議員の解職請求代表者の資格について準用し、公務員について解職請求代表者となることを禁止していることは、地方自治法の委任に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものとはいえない。
オ 国家公務員法が人事院規則に委任しているのは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為の行為類型を規制の対象として具体的に定めることであるから、国家公務員法が懲戒処分の対象と刑罰の対象とで殊更に区別することなく規制の対象となる政治的行為の定めを人事院規則に委任しているからといって、憲法上禁止される白紙委任に当たらない。
1 一つ 2 二つ 3 三つ 4 四つ 5 五つ
(注)* 学校教育法88条
この法律に規定するもののほか、この法律施行のため必要な事項で、地方公共団体の機関が処理しなければならないものについては政令で、その他のものについては監督庁が、これを定める。
解答 2
法律による委任についての問題です。個数問題であり、肢エは細かい問題ですから間違えても仕方のない問題でしょう。問題文よりも少し詳細な判例を載せておきますので一読しておいてください。
テキストP31~39
ア 正
(最判平成2年2月1日)
『日本刀は、原材料に玉鋼を主体としたものを用い、折返し鍛練を行い、土取りを施し、焼入れをすることによって製作されるものであり、我が国独自の製作方法と様式美を持った刀剣であるが、その製作方法は奈良時代以後に次第に発達してきたものであって、平安時代以降は刀身に作者名を切るようになり、各派の作風の特徴が刀剣自体に具現されるようになったが、このような様式美を有する日本刀については、古くから我が国において美術品としての鑑賞の対象とされてきた、というのであり、これらの認定事実に照らすと、規則が文化財的価値のある刀剣類の鑑定基準として、前記のとおり美術品として文化財的価値を有する日本刀に限る旨を定め、この基準に合致するもののみを我が国において前記の価値を有するものとして登録の対象にすべきものとしたことは、法一四条一項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めたものというべきであるから、これをもって法の委任の趣旨を逸脱する無効のものということはできない。そうすると、上告人の登録申請に係る本件サーベル二本は上告人がスペインで購入して日本に持ち帰った外国刀剣であって、規則四条二項所定の鑑定の基準に照らして、登録の対象となる刀剣類に該当しないことが明らかであるから、以上と同旨の見解に立って、上告人の右登録申請を拒否した被上告人の本件処分に違法はないとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。』
イ 正
最判平成9年8月29日
『学校教育法五一条によって高等学校に準用される同法二一条一項は、文部大臣が検定権限を有すること、学校においては検定を経た教科書を使用する義務があることを定めたものであり、検定の主体、効果を規定したものとして、本件検定の根拠規定とみることができる。また、本件検定の審査の内容及び基準並びに検定の手続は、文部省令、文部省告示である旧検定規則、旧検定基準に規定されているが、教科書は、小学校、中学校、高等学校及びこれらに準ずる学校において、教科課程の構成に応じて組織、配列された教科の主たる教材として、教授の用に供される児童又は生徒用図書であり、これらの学校における教育が正確かつ中立・公正でなければならず、心身の発達段階に応じて定められた当該学校の目的、教育の目標、教科の内容等に沿って行われるべきことは、教育基本法、学校教育法の関係条文から明らかであり、これらによれば、教科書は、内容が正確かつ中立・公正であり、当該学校の目的、教育の目標、教科の内容に適合し、内容の程度が児童、生徒の心身の発達段階に応じたもので、児童、生徒の使用の便宜にかなうものでなければならないことはおのずから明らかである。そして、旧検定規則、旧検定基準は、右の関係法律から明らかな教科書の要件を審査の内容及び基準として具体化したものにすぎず、文部大臣が、学校教育法八八条の規定に基づいて、右審査の内容及び基準並びに検定の施行細則である検定の手続を定めたことが、法律の委任を欠くとまではいえない。したがって、本件検定が憲法一三条、四一条、七三条六号の規定に違反するとの論旨は、その前提を欠き、失当である(前掲平成五年三月一六日第三小法廷判決参照)。』
ウ 誤
(最判平成14年1月31日)
『法は、いわゆる死別母子世帯を対象として国民年金法による母子福祉年金が支給されていたこととの均衡上、いわゆる生別母子世帯に対しても同様の施策を講ずべきであるとの議論を契機として制定されたものであるが、法が4条1項各号で規定する類型の児童は、生別母子世帯の児童に限定されておらず、1条の目的規定等に照らして、世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童、すなわち、児童の母と婚姻関係にあるような父が存在しない状態、あるいは児童の扶養の観点からこれと同視することができる状態にある児童を支給対象児童として類型化しているものと解することができる。母が婚姻によらずに懐胎、出産した婚姻外懐胎児童は、世帯の生計維持者としての父がいない児童であり、父による現実の扶養を期待することができない類型の児童に当たり、施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において婚姻外懐胎児童を法4条1項1号ないし4号に準ずる児童としていることは、法の委任の趣旨に合致するところである。一方で、施行令1条の2第3号は、本件括弧書を設けて、父から認知された婚姻外懐胎児童を支給対象児童から除外することとしている。確かに、婚姻外懐胎児童が父から認知されることによって、法律上の父が存在する状態になるのであるが、法4条1項1号ないし4号が法律上の父の存否のみによって支給対象児童の類型化をする趣旨でないことは明らかであるし、認知によって当然に母との婚姻関係が形成されるなどして世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもない。また、父から認知されれば通常父による現実の扶養を期待することができるともいえない。したがって、婚姻外懐胎児童が認知により法律上の父がいる状態になったとしても、依然として法4条1項1号ないし4号に準ずる状態が続いているものというべきである。そうすると、施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において、法4条1項1号ないし4号に準ずる状態にある婚姻外懐胎児童を支給対象児童としながら、本件括弧書により父から認知された婚姻外懐胎児童を除外することは、法の趣旨、目的に照らし両者の間の均衡を欠き、法の委任の趣旨に反するものといわざるを得ない。』
エ 誤
(最判平成21年11月18日)
『普通地方公共団体の議会の議員の選挙権を有する者は、法定の数以上の連署をもって、解職請求代表者から、当該普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該議会の議員の解職の請求をすることができ(地自法80条1項)、選挙管理委員会は、その請求があったときは、直ちに請求の要旨を関係区域内に公表するとともに(同条2項)、これを選挙人の投票に付さなければならないこととされている(同条3項)。このように、地自法は、議員の解職請求について、解職の請求と解職の投票という二つの段階に区分して規定しているところ、同法85条1項は、公選法中の普通地方公共団体の選挙に関する規定(以下「選挙関係規定」という。)を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているのであるから、その準用がされるのも、請求手続とは区分された投票手続についてであると解される。このことは、その文理からのみでなく、〈1〉解職の投票手続が、選挙人による公の投票手続であるという点において選挙手続と同質性を有しており、公選法中の選挙関係規定を準用するのにふさわしい実質を備えていること、〈2〉他方、請求手続は、選挙権を有する者の側から当該投票手続を開始させる手続であって、これに相当する制度は公選法中には存在せず、その選挙関係規定を準用するだけの手続的な類似性ないし同質性があるとはいえないこと、〈3〉それゆえ、地自法80条1項及び4項は、請求手続について、公選法中の選挙関係規定を準用することによってではなく、地自法において独自の定めを置き又は地自令の定めに委任することによってその具体的内容を定めていることからも、うかがわれるところである。
したがって、地自法85条1項は、専ら解職の投票に関する規定であり、これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって、解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできない。 (2)しかるに、前記2(2)のとおり、本件各規定は、地自法85条1項に基づき公選法89条1項本文を議員の解職請求代表者の資格について準用し、公務員について解職請求代表者となることを禁止している。これは、既に説示したとおり、地自法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものであって、その資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで無効と解するのが相当である。』
オ 正
(最判平成24年12月7日)
『まず、本件罰則規定の目的は、前記のとおり、公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持することにあるところ、これは、議会制民主主義に基づく統治機構の仕組みを定める憲法の要請にかなう国民全体の重要な利益というべきであり、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為を禁止することは、国民全体の上記利益の保護のためであって、その規制の目的は合理的であり正当なものといえる。他方、本件罰則規定により禁止されるのは、民主主義社会において重要な意義を有する表現の自由としての政治活動の自由ではあるものの、前記アのとおり、禁止の対象とされるものは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為に限られ、このようなおそれが認められない政治的行為や本規則が規定する行為類型以外の政治的行為が禁止されるものではないから、その制限は必要やむを得ない限度にとどまり、前記の目的を達成するために必要かつ合理的な範囲のものというべきである。そして、上記の解釈の下における本件罰則規定は、不明確なものとも、過度に広汎な規制であるともいえないと解される。また、既にみたとおり、本法102条1項が人事院規則に委任しているのは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為の行為類型を規制の対象として具体的に定めることであるから、同項が懲戒処分の対象と刑罰の対象とで殊更に区別することなく規制の対象となる政治的行為の定めを人事院規則に委任しているからといって、憲法上禁止される白紙委任に当たらないことは明らかである。』