民法 債権 (H27-31)
(H27-31)
代物弁済(担保目的の代物弁済契約によるものは除く。)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
1 債務者が債権者と合意して、債権者に対し本来の債務の弁済に代えて自己が所有する土地を譲渡した場合、土地所有権の移転の効果は、原則として代物弁済契約の意思表示によって生じる。
2 債務者が債権者と合意して、債権者に対し本来の債務の弁済に代えて自己が所有する土地を譲渡した場合、債務消滅の効果は、原則として移転登記の完了時に生じる。
3 債務者が債権者と合意して、債権者に対し本来の債務の弁済に代えて自己が占有する時計を引き渡した場合、当該時計が他人から借りた時計であったとしても、債権者が、善意、無過失で、平穏に、かつ、公然と占有を開始したときには、時計の所有権を取得できる。
4 債務者が債権者と合意して、債権者に対し本来の債務の弁済に代えて自己が所有する時計を引き渡した場合、その時計に隠れた瑕疵があるときでも、債権者は、債務者に対し瑕疵担保責任を追及することはできない。
5 債務者が債権者と合意して、債権者に対し本来の債務の弁済に代えて手形または小切手を交付した場合、これによって債務消滅の効果が生じるので、それらの不渡りがあっても、債権者は、債務者に対し損害賠償を請求することはできない。
解答 4
(H27-31)
代物弁済に関する基本的な問題ですので、是非とも正解したい問題です。
解答 4 テキストP548~
肢1 正 肢2 正
代物弁済とは、本来の給付に代えて、他の給付をもって債務を消滅させる契約です。
他の給付を現実にすることが必要なので要物契約となります。
通常の弁済は準法律行為であって契約ではないのに対し、代物弁済は契約であるため債権者の承諾が要件となっているのです。
ですから、債権者の承諾があれば、貸金債務に対してお金ではなく不動産や動産などで弁済してもかまわないのです。
では、代物弁済の効力はどの時点で発生するのでしょうか。
普通の売買と同じように考えるならば、契約時に所有権が移転するので、契約時に弁済の効果が生じるとも思えます(176条)。
しかし、代物弁済は要物契約なので、給付が実現されることを要するのです。
そのため、動産による代物弁済の場合は、引渡しが必要であり、不動産による代物弁済の場合は、所有権移転登記の完了で初めて弁済の効果が生じるのです。
このように、代物弁済の場合は、意思主義(176条)から、契約によって動産や不動産の所有権の移転が生じるものの、引渡しや登記の完了によって初めて弁済の効果が生じるので、所有権の移転時期と代物弁済の効果が生じる時期とがずれる点に注意しましょう。
肢3 正
弁済も取引行為なので、動産の代物弁済の場合にも要件を満たせば、即時取得が成立します(192条)
肢4 誤
代物弁済も有償契約ですから、担保責任の規定が準用されます。
したがって、代物弁済をした時計に隠れた瑕疵があるとき、債権者は、債務者に対し瑕疵担保責任を追及することができるのです(559条、570条、566条)。
肢5 正
手形や小切手を代物弁済として譲渡した場合、手形や小切手は債権譲渡と同じ機能を有することから、債権譲渡による代物弁済と同じように考えればよいのです。そうすると、569条の債権の売主の担保責任が参考になるでしょう。
(債権の売主の担保責任)
第569条
1 債権の売主が債務者の資力を担保したときは、契約の時における資力を担保したものと推定する。
2 弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは、弁済期における資力を担保したものと推定する。
債権の場合は、債権額の全てが弁済されるかどうかは、債務者の資力、つまり総財産にかかっています。ですから、この債務者の資力については、特約が無い限り売主は責任をもたないというのが本条です。
例えば、債権者Aが債務者Bに対して有する100万円の債権を第三者Cに売買した場合、Bに100万円以上の財産がなければ、Cに全額を弁済することはできません。
そうすると、もし、債務者が無資力だった場合、この債権は無価値になりますね。
しかし、この債務者Bに100万円以上の財産があるかどうかについてAは原則として責任を持ちませんということです。
債務者の財産の有無は担保責任の問題ではないということです。
同じように、手形や小切手を代物弁済として交付したとしても、手形や小切手を振り出した債務者の資力について、代物弁済をした者が責任を負わないのです。