憲法 人権 (H15-4)
次の文章は、ある最高裁判決の一部である。そこにいう検閲の定義にあてはまると考えられる事例は、ア~オのうち、いくつあるか。
憲法21条2項にいう「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指す。
ア 税関で、関税定率法における輸入禁制品の検査の結果、わいせつ表現を含む書物の輸入を禁止すること
イ 当事者の申請に基づき審理した上で、裁判所が、名誉毀損表現を含む出版物を、仮処分により事前に差し止めること
ウ 高等学校用「政治・経済」の教科書として出版しようとした書物につき、文部科学省で検定し、不合格の処分を行うこと
エ メーデー式典に使用する目的で出された、公共の用に供されている広場の利用申請に対して、不許可の処分を行うこと
オ 総務省で、出版前に書物を献本することを義務づけ、内閲の結果、風俗を害すべき書物については、発行を禁止すること
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
5 五つ
解答 1
問題文に検閲の定義がでているのでこれにあてはめれば答えは簡単にでますね。検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認められるものの発表を禁止することをいいます。
今後は、定義を知っているのを前提に出題してくる可能性があるので定義を以下のように分解して押さえておきましょう。
主体=行政権、
対象=思想内容等の表現物、
目的=全部又は一部の発表の禁止、
時期=発表前
この定義に全てあてはまらないものは検閲になりません。この定義のうち特に重要なのは、目的のところであり、どのような形であれ発表そのものを禁止するということです。
(肢ア)
主体=税関
対象=わいせつ表現を含む書物
目的=輸入の禁止
輸入を禁止するものの、国外における発表まで禁止するものではないですね。
ですから、目的があてはまらず、検閲ではありません。
なお、税関検査合憲判決(最大判昭和59年12月12日)からの出題です。
(肢イ)
主体=裁判所
対象=名誉毀損表現を含む出版物
目的=仮処分により事前に差し止めること
主体が裁判所なので、検閲にあたりませんね。
なお、北方ジャーナル事件(最大判昭和61年6月11日)からの出題です。
(肢ウ)
主体=文部科学省
対象=教科書
目的=教科書としての出版不合格
教科書以外の一般の出版物としてなら発表することができるので、目的があてはまらないですね。よって、検閲ではありません。
なお、家永教科書裁判(最判平成5年3月16日)からの出題です。
(肢エ)
主体=処分庁
対象=広場の利用
目的=申請の不許可の処分
その広場での利用を不許可したからといって、発表そのものが禁止されるわけではありません。
ですから、検閲にあてはまりません。
(肢オ)
主体=総務省=行政権
対象=風俗を害すべき書物=思想内容等の表現物
目的=発行を禁止=全部又は一部の発表の禁止
時期=出版前=発表前
これは定義に全てあてはまりますね。
以上より、オのみが検閲となるので解答は1です。