行政法 総論 (H18-10)
行政行為の職権取消と撤回に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 行政行為の撤回は、処分庁が、当該行政行為が違法になされたことを理由にその効力を消滅させる行為であるが、効力の消滅が将未に向かってなされる点で職権取消と異なる。
2 旅館業法8条が定める許可の取消は、営業者の行為の違法性を理由とするものであるから、行政行為の職権取消にあたる。
3 公務員の懲戒免職処分は、当該公務員の個別の行為に対しその責任を追及し、公務員に制裁を課すものであるから、任命行為の職権取消にあたる。
4 行政行為の職権取消は、私人が既に有している権利や法的地位を変動(消滅)させる行為であるから、当該行政行為の根拠法令において個別に法律上の根拠を必要とする。
5 行政行為の職権取消は、行政活動の適法性ないし合目的性の回復を目的とするものであるが、私人の信頼保護の要請等との比較衡量により制限されることがある。
(参考)
旅館業法8条「都道府県知事は、営業者が、この法律若しくはこの法律に基づく処分に違反したとき、又は第三条第二項第三号に該当するに至ったときは、同条第一項の許可を取り消し、又は期間を定めて営業の停止を命ずることができる。(以下略)」
解答 5
この問題は、行政行為の職権取消しと撤回の比較問題です。比較問題といっても、難易度はあまり高くないので、解答はすぐ出せると思います。
まず、両者の定義と効果を押さえましょう。
行政行為の職権取消とは、違法な行政行為の効力を、原則として行政行為がなされた時点まで法律関係を元に戻すことをいう。
職権取消の効果は遡及効です。
行政行為の撤回とは、成立時には適法であった行政行為を、その後に生じた事情を理由として、将来に向かってその効力を失わせることをいう。撤回の効果は将来効です。
実体法上は撤回ではなく「取消し」という言葉を使いますが、全く意味が違うので注意してください。まずここまでで解答してみましょう。
(肢1) 誤
この問題のポイントは、
「行政行為の撤回は、処分庁が、当該行政行為が違法になされたことを理由にその効力を消滅させる行為であるが~」の部分です。
上記の撤回の定義からすると、「違法になされたことを理由」という部分で誤りだとわかりますね。
よって、肢1は誤りです。
(肢2) 誤
この問題のポイントは、
「旅館業法8条が定める許可の取消は、営業者の行為の違法性を理由とするものであるから~」の部分です。
旅館業法8条?と思いましたが、(参考)にありますから、知らなくてよいという意図ですね。
(参考)にちょっと言葉を加えてみます。(オレンジ色部分が加えた部分です。)
旅館業法8条「都道府県知事は、すでに営業者となっている者が、この法律若しくはこの法律に基づく処分に事後的に違反したとき、又は第三条第二項第三号に該当するに至ったときは、同条第一項の許可を取り消し、又は期間を定めて営業の停止を命ずることができる。(以下略)」
言葉を少し付け加えると余計にわかり安いですね。
旅館業法8条の許可の取消は、上記の注意にもあった撤回の意味で使われていました。
そうすると、肢1と同じように、「違法性を理由」という部分で誤りだとわかりますね。
よって、肢2は誤りです。
(肢3) 誤
この問題のポイントは、
「公務員の懲戒免職処分は、~その責任を追及し、~制裁を課すものであるから、任命行為の職権取消にあたる。」の部分です。
読んで一瞬「うん?」と思いましたが、まず、懲戒免職処分は、公務員という地位に基づく処分ですから、公務員となった後の行為に対する処分ですね。
また、責任追及や制裁ならば、行政行為がなされた時点まで法律関係を元に戻しても意味がないですね。ですから、上記の職権取消しの定義からすると、責任追及や制裁だから職権取消しになるという因果関係が全く読み取れませんね。よって、肢3は誤りです。
ここまでの3つは、定義から解答できましたね。
残り2つですが、先に肢5からやりましょう。
(肢5) 正
この問題のポイントは、
「行政行為の職権取消は、~私人の信頼保護の要請等との比較衡量により制限されることがある。」の部分です。
まず、問題文の「行政行為の職権取消は、行政活動の適法性ないし合目的性の回復を目的とするものである~」の部分は正しいです。
上記の職権取消しの定義からすると、職権取消しによって、行政活動の違法状態が是正されて、その効果が遡及しますから、違法性が全くない状態、つまり、適法性の状態に回復することになるからです。
さて、「私人の信頼保護の要請等との比較衡量により制限される」という部分はどうでしょうか。
確かに、職権取消は、瑕疵ある行政行為の効力を失わせ、適法状態に回復するものですから、法律による行政の原理からすれば、自由にしてもよさそうにも思えます。
しかし、一度行政からOKがでて、それを前提にしばらく行動してきた私人に対して、「やっぱり違法だったから駄目!」といわれて振り出しに戻されたのでは、私人の信頼を裏切ることになりますね。
例えば、ある事業の許認可を受けて、ある私人が事業をしてきたところ、違法性が発見され、職権取消しをされると、その私人は当初から無許可で事業をやってきたことになりますから、不利益を被りますね。
ですから、行政庁が職権取消しを無制約になしうる訳ではないのです。
その際、職権取消しをすべきか、それとも私人の信頼を保護すべきかについて、職権取消しの対象となる行政行為の性質などを考えながら、比較衡量するのです。
何度もでてきている公平のバランスっていうものです。憲法でも比較衡量の基準というのが出てきたと思いますが、同じようなものです。
ですから、私人の信頼を保護すべき要請が強いときは、職権取消しの要請は一歩後退しますから、制限されうるのです。
よって、肢5は正しいのです。
なお、事業の許認可などを授益的行政行為といいます。これに対して、不利益処分などを侵害的行政行為といいます。
また、念のために言っておきますが、法律による行政の原理については、行政法の基本中の基本ですから、他人にしっかり説明できるくらいまで理解しておいてください。
(肢4) 誤
この問題のポイントは、
「行政行為の職権取消は、~個別に法律上の根拠を必要とする。」の部分です。
肢5の問題文にあったように、行政行為の職権取消は、行政活動の適法性ないし合目的性の回復を目的とするものです。
つまり、法律の違反行為を是正して、適法状態に回復するものですから、法律に合致することになりますね。
そして、法律に合致しているということは、すでに法律の根拠を得ているともいえます。
ですから、改めて法律の根拠を得るまでもないといえます。よって、肢4は誤りです。
定義を知っているだけで、3つも肢が切れますから、難易度は高くないと納得されたと思います。