商法・会社法 (H18-39)
会社の合併に関する次のア~オの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
ア 会社が合併するには、各当事会社の株主総会の特別決議による承認を要するが、存続会社に比べて消滅会社の規模が著しく小さい場合には、各当事会社は株主総会決議を省略することができる。
イ 合併の各当事会社は、会社債権者に対して、合併に異議があれば一定の期間内に述べるように官報に公告し、かつ電子公告をした場合であっても、知れたる債権者には個別催告する必要がある。
ウ 合併決議前に反対の意思表示をし、かつ合併承認決議に反対した株主は、合併承認決議が成立した場合には、株式買取請求権を行使することができる。
エ 会社の合併が違法である場合に、各当事会社の株主、取締役等、または合併を承認しなかった債権者は、その無効を合併無効の訴えによってのみ主張することができ、合併無効の判決が確定した場合には、将来に向かってその合併は無効となる。
オ 会社の合併により、消滅会社の全財産が包括的に存続会社に移転するため、財産の一部を除外することは許されないが、消滅会社の債務については、消滅会社の債権者の承諾が得られれば、存続会社は消滅会社の債務を引き継がないとすることも可能である。
1 ア・エ
2 ア・オ
3 イ・ウ
4 イ・エ
5 ウ・エ
解答 5
本問のテーマは合併です。
さて、この問題は一見すると合併に関する個別の条文の知識が必要かと思ってしまいます。
しかし、合併に関する基本的な理解と知識だけで解けます。具体的に必要なのは①包括承継と②合併の効果の重大性という2つの視点だけです。
その前提として、会社法において会社に関わる当事者や利害関係人は、取締役などの会社の機関、会社の実質的所有者たる株主、取引の相手方たる債権者であることを確認してください。
<①包括承継>
包括承継とは、自然人の相続と同じように合併後の会社が消滅する会社の債権債務を含めた全てを承継するということです。
個々に債権債務を譲渡したいのなら、民法で学んだ債権譲渡や債務引き受けをすればいいし、事業の一部を譲渡したいなら、事業譲渡すればいいのです。
このように、合併は包括承継される企業結合の一形態なのです。
ここで、①包括承継に関連する肢オを検討してみましょう。上記の通り、合併は、包括承継される企業結合の一形態です。ですから、会社の保有する財産や債権のみならず債務についても全て包括承継します。
そのため、消滅会社の債務については、消滅会社の債権者の承諾が得られたとしても、存続会社は消滅会社の債務を引き継がないとすることはできません。よって、オは誤りです。
<②合併の効果の重大性>
合併するということは、新設合併であろうと吸収合併であろうと会社の組織が大きく変化するということです。
例えば吸収合併には、存続会社と消滅会社がありますね。両会社にも取締役などの会社の機関、株主、会社債権者は存在します。
合併すれば取締役などの会社の機関構成が変わる可能性があります。
また、株式の割合が変化して、株主の議決権や利益配当などに影響が出てきます。さらに、債権者にとってみると、存続会社なら取引の相手方の規模が変るし、消滅会社なら取引主体そのものが変化します。
このように、合併をすることで、会社に関わる会社の機関、株主、会社債権者に重大な影響を及ぼします。
以上を前提に②合併の効果の重大性に関連する肢ア~エを検討しましょう。
(アとウ)
アもウも株主に関わる肢ですね。アでは「株主総会決議が省略できる」とされていますが、上記の通り、合併は株主に重大な影響を及ぼすことから、実質的所有者たる株主の意向を無視して合併できないのが原則です。ですから、原則として株主総会による特別決議が必要です。よって、アは誤りです。
なお、簡易合併制度というものもありますが、これは存続会社の株主への影響が少ないため例外的に許されているものです。
簡易合併制度とは、一定の条件を満たす大規模会社の小規模会社に対する吸収合併を株主総会の特別決議ではなく、取締役会決議で可能とする制度です。
吸収合併消滅会社の株主に交付する吸収合併存続株式会社の株式の数に1株当たり純資産額を乗じて得た額と吸収合併存続株式会社の株式等以外の財産の帳簿価額等の合計額が、吸収合併存続株式会社の純資産額の5分の1(20%)を超えない場合に簡易合併することができます(796条3項)。
要するに存続会社の5分の1程度の規模の会社を合併したとしても存続会社の債権債務にはそれほど影響を与えないので株主総会の決議を経るまでもなく、取締役の経営判断でできるということです。
ただし、株主総会の特別決議を省略できるのは存続会社のみであって、消滅してしまう消滅会社については、その株主にとって重大な影響を及ぼしますから、原則どおり株主総会の特別決議が必要です。ですから、簡易合併というのを考慮に入れたとしても、各当事会社が株主総会決議を省略することができるわけではないので誤りです。
ウは「反対株主が、株式買取請求権を行使することができる」とされています。上記の通り、合併は株主に重大な影響を及ぼすことから、合併に反対の株主が投下資本の回収をできるようにしなければなりません。本来、株主が投下資本の回収をするには、株式譲渡という方法があります。
しかし、合併によって、株式の価値が下がる可能性もあるので、市場で株式譲渡をするのは容易とはいえません。
そこで、会社側に株式を買い取ってもらえるという株式買取請求権を反対株主に与えているのです。合併が株主に重大な影響を及ぼすことから、このようなセイフティネットがわざわざ用意されているのです。ですからウは正しいです。
(イ)
次にイを見てみましょう。イは債権者保護手続に関連する問題です。合併は債権者にも重大な影響を及ぼすことから、本来は官報に公告し、かつ知れたる債権者には個別催告する必要があるのが原則です(789条)。
しかし、会社に不当な負担をかけてまで債権者を保護する必要は公平の観点から妥当ではありません。
そこで、会社が官報の他に日刊新聞紙による公告や電子公告などの個別催告したのと同様な効果をもたらす告知をした場合は、それに加えて個別催告する必要があるとするのは会社に不当な負担をかけることになります。
また、債権者にとってもよほど自己の債権回収に不熱心なものでないかぎり、債務者たる会社の情報は容易に調べられる範囲で調べるでしょうから、官報の他、日刊新聞紙による公告や電子公告されているならば個別催告されなくとも不都合はないでしょう。
ですから、この場合例外的に個別催告は不要なのです。よって、イは誤りです。
(エ)
合併をすることで、会社に関わる会社の機関、株主、会社債権者に重大な影響を及ぼします。ですから、いったん合併がなされたら、たとえ合併が違法だとわかっても、誰もが容易に覆すわけにはいきません。
そこで、その違法性を裁判所という公の中立的な国家機関によって判断される必要があるのです。
ですから吸収合併をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は吸収合併後存続する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは吸収合併について承認をしなかった債権者に限って、その無効を合併無効の訴えによってのみ主張することができるのです。
また、合併の効果の重大性から合併の効果は当事者にのみ適用される相対効ではなく、広く第三者にも適用される対世効なのです。
ですから、合併無効の判決が確定した場合でも、遡及することは権利関係を複雑にし、法的安定性を害するので将来に向かってその合併は無効となるのです。よって、エは正しいです。
以上より5のウとエが正解になります。
なお、この問題はアとイがわかれば正解できます。
しかし、イは例外が聞かれている肢なので少し難しいと思います。
おそらく上記2つの視点からア、ウ、オの正誤は容易に判断できるでしょう。後は解答の肢3と4のいずれか、つまり問題の肢イとエのどちらが正しいかの判断になります。ただエは合併の効果の重大性から導けるものですから、もうエが正しいと判断できるでしょう。
この問題が個数問題であったら、かなり正答率が低くなると予想されます。個数問題だと条文の正確な知識が必要なのではと思って、問題の肢の一字一句にとらわれてしまいがちになるからです。
わざわざ組合せ問題にしたということは、上記2つの視点から解けますか、というのが出題意図だと思われます。
ですからこの問題を復習するときは上記2つの視点をまず理解して、その上で条文の基本的な知識を覚えておけばいいでしょう。