商法・会社法 (H18-40)
会社の種類に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1 合名会社と合資会社の持分は、定款の定めにより1持分につき複数の議決権を与えることができるが、株式会社でも、1株に複数の議決権を有する種類株式を発行する旨を定款に定めることができる。
2 合名会社の無限責任社員は、各社員が会社債務全額につき連帯責任を負うが、会社債権者に対して、まず会社資産から弁済を受けるように求めることができる。
3 合資会社の有限責任社員は、定款記載の出資額までしか責任を負わないため、有限責任社員となる時点で出資全額の履行が要求されている。
4 株式会社は、株式会社を表章する有価証券を発行しなければならず、合名会社と合資会社でも持分を表章する有価証券を発行しなければならない。
5 合資会社では、無限責任社員から業務執行権と会社代表権を有する代表社員を選任することを要し、株式会社では、取締役から業務執行権と会社代表権を有する代表取締役を選任する。
解答 2
肢1
合名会社と合資会社の業務執行の意思決定は原則として社員一人につき一票による多数決で行うところ(590条2号)、定款によって、出資額による多数決とすることはできるが1持分につき複数の議決権を与えることはできないと解されています。
株式会社は、ある程度大規模経営を予定しているので、事業に必要な巨額の資金を調達する際に、資本を細分化し、少額の出資を多数の出資者から募ることが必要です。そのため、株式は均一的な細分化された割合的な構成単位をとっています。
つまり、個人的な信用関係などとは関係なく、出資した分だけ議決権の行使などで口も出せるような仕組みを取っているのです。
イメージとして、100円均一の100円ショップでは、レジの人が商品の数さえ数えられれば値段がすぐ出る仕組みと似ています。
ですから、一株につき一議決権のみ与えられるのであって複数の議決権は与えられません。
よって、肢1は誤りです。
肢2
無限責任とは、会社が負った債務を会社財産では弁済しきれなかった場合、社員が自己の個人財産からその債務の弁済をしなければならないことを言います。つまり、会社債権者との直接の取引当事者は会社自体ですから、まずは会社財産で弁済すべきであり、弁済できなかったときに初めて無限責任を負っている社員が代わりに弁済するという二次的な責任ということです。
これは民法の保証契約に似ており、いわば、会社が主たる債務者で、無限責任社員は保証人のような関係であると理解しておくと良いでしょう。よって、肢2は正しいです。
肢3
債権者にしてみれば、債権を実行する際に有限責任社員に対して出資額を請求できれば十分なので、有限責任社員となる時点で出資全額の履行がされている必要はありません。よって、肢3は誤りです。
肢4
この問題は上記の重要ポイント②投下資本の回収方法が問題となっていますので、少し説明いたします。
合名会社と合資会社では退社制度(出資の払戻)が認められていますが、株式会社では株主は有限責任しか負いませんから会社債権者にとっては、会社財産のみが債権回収の頼みの綱なので、会社財産が減少する退社制度は認められていません。
それゆえ、株主の投下資本の回収方法は株式の譲渡が原則なのです。この株式の譲渡の際に、株券発行会社では有価証券たる株券も一緒に譲渡する必要があるのです。
逆に、合名会社と合資会社では退社制度は認められているが、社員の個性が重視されるので、不適切な者が経営に参加しないように株式のように持分を自由に譲渡することはできず、譲渡するには全社員の承諾(同意)が必要とされています。
このように持分の譲渡が著しく制限されているので、譲渡に必要な株券のような有価証券は必要ないのです。
ここでしっかり押さえておきたいのは、②投下資本の回収方法の相違です。合名会社と合資会社=退社制度、株式会社=株式の譲渡
よって、肢4は誤りです。
なお、現在は管理コストの面から株券のペーパレス化が進んでおり、株券を発行しないのが原則となっています(214条)。
肢5
平成17年改正前は、責任と権限の強さは比例すべきとの考え方から、この肢の通りに合資会社では無限責任社員しか代表者になれませんでした。
しかし、経営のトップを誰にするかは、会社の形態に関わらず、その会社の自治に任せるべきという考え方が強くなり、有限責任社員でも代表者になることができるようになりました(590条1項 599条1項本文)。よって、肢5は誤りです。