基礎法学 (H19-1)
各種の裁判所や裁判官に関する次の記述のうち、妥当でないものはどれか。
1 高等裁判所長官、判事、判事補および簡易裁判所判事は、いずれも最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣が任命する。
2 高等裁判所、地方裁判所および家庭裁判所の裁判官については65歳の定年制が施行されているが、最高裁判所および簡易裁判所の裁判官については定年の定めが存在しない。
3 地方裁判所や家庭裁判所の裁判は、事案の性質に応じて、三人の裁判官による合議制で行われる場合を除き、原則として一人の裁判官によって行われるが、高等裁判所の裁判は、法律に特別の定めがある場合を除き、複数の裁判官による合議制で行われることになっている。
4 簡易裁判所は軽微な事件の処理のために設けられた下級裁判所であり、訴訟の目的の価額が一定額を超えない請求に関する民事事件、罰金以下の刑にあたる罪など一定の軽微な犯罪についての刑事事件の第一審を担当する。
5 最高裁判所は、大法廷または小法廷で審理を行うが、法令等の憲法違反の判断や最高裁判所の判例を変更する判断をするときは、大法廷で裁判しなければならない。
解答 2
この問題の正解は、肢2です。
肢2が妥当でなく、他の肢は全て妥当なのです。
なお、問題文の「妥当でないものはどれか」という言葉に引っかからないようにしましょう。
まず、この正解肢2から見ていきましょう。
<肢2>
まず、裁判所法50条を根拠とした方はいますか?
直接の根拠としては、正しいですが、かなり細かい知識に根拠を求めすぎています。
行政書士試験は、範囲が広いので知識はできるだけ少ない方向にするのが合格の近道であるということを忘れないでください。
次に、憲法79条5項、80条1項を根拠にした方は、結構多いのではないかと思われます。
この憲法の条文の具体化が、上記の裁判所法50条ですので、一つ上位の条文を根拠にしていることは、決して悪くはありません。
「憲法79条5項、80条1項」→「裁判所法50条」
しかし、それでも、この問題は少し憲法の条文知識としては細かいように思えます。
皆さんが最も勉強するものは、何でしょう。もちろん過去問です。
それならば、H17問題6の肢3を根拠とするのが、最も端的です。
「3 裁判官の身分保障に関連して、下級裁判所の裁判官の任期は10年であり、仮に再任されたとしても、法律の定める年齢に達したときには退官するものとされている。」
この肢が正しいと知っているならば、解けてしまいます。
仮に最高裁判所長官の定年について、つまり憲法79条5項を知らなかった、あるいは、試験中に思い出せなかったとしましょう。
それでも、簡易裁判所の裁判官=下級裁判所の裁判官とわかれば、H17問題6の肢3から、本問肢2の「定年の定めが存在しない」という部分が誤りだとわかりますね。
このように過去問を分析していれば、問題文に色々尾ひれがついても引っかからないということです。
そして、この肢2の分析から必要最小限の知識は、「裁判官には、定年がある」ということだけであるということがわかるのです。
<肢1>
この問題も、裁判所法40条1項や憲法80条1項よりも、H11問題25の肢1またはH10年問題25の肢3を根拠とするほうがいいでしょう。
もっというと、H8年問題24の肢3を根拠とするほうがより端的です。
(H11問題25の肢1)
「1.最高裁判所の裁判官は、内閣の指名に基づいて天皇が任命し、下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿に基づいて内閣が任命する。」
(H10年問題25の肢3)
「下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命する。」
(H8年問題24の肢3)
「日本国憲法における内閣の権能又は職務に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
3 下級裁判所の裁判官の任命」
このH8年問題24の肢3とH19問題1の肢1は同じ問題なのです。
つまり、H19問題1の肢1のエッセンスは、「下級裁判所の裁判官の任命=内閣の権能」ということだけです。
「高等裁判所長官、判事、判事補および簡易裁判所判事」=下級裁判所の裁判官
「いずれも」という言葉に惑わされないようにしましょう。
<肢5>
これも裁判所法10条が直接の根拠ですが、H17問題1の肢イを解いていれば、ほぼ同じ問題ですからすぐ答えがでますね。
端的に言うと、「憲法違反や判例変更の裁判は、最高裁の大法廷でなされる」ということです。
<肢3>
この問題も、直接の根拠は、裁判所法(18条、26条、31条)ですが、知らなくてもすでに正解が出ていますね。
今後の対策としては、まず裁判は、原則として三審制であること、つまり、地裁→高裁→最高裁であることは常識として知っていますね。
そして、上級審になるにつれ、原則として裁判官の人数が以下のように増えていきます。
これは、より人数が増えるほうが客観的で公正な裁判を担保することができるからです。
1人(地裁)→3人(高裁)→5人(最高裁小法廷)→15人(最高裁大法廷)
端的に言えば、「上級審になるにつれ、裁判官の人数が増える」ということです。
<肢4>
これも、この問題も、直接の根拠は、裁判所法(33条)ですが、知らなくてもすでに正解が出ていますね。
端的に言えば、「簡易裁判所では、軽微な事件を扱う」ということですから、今後の対策としてまずはこれだけ常識として知っておきましょう。
本問のエッセンスだけで問題を置き換えてみると、以下のようになります。
1 下級裁判所の裁判官は、内閣が任命する。
2 裁判官には、定年がない。
3 上級審になるにつれ、裁判官の人数が増える。
4 簡易裁判所では、軽微な事件を扱う。
5 憲法違反や判例変更の裁判は、最高裁の大法廷でなされる。
もし、これが問題だったら非常に簡単ですね。
でも、本問は、これと全く同じ問題であるということを認識してください。
つまり、裁判所法などの細かいことは聞いていないということです。
これがわからずに、行政書士試験でも裁判所法が出るようになったから、裁判所法の勉強を始めようなどと思うと合格がどんどん遠くに離れていきます。
このように過去問を分析するときは、常に出題の意図=必要最小限度の知識と理解は何かを意識するようにしてください。
そうすると、この問題を解くために何を勉強しておけばいいかがわかり、本番でも長い文章の尾ひれに騙されずに簡単に肢が切れるのです。