民法 債権 (H19‐32)
次のア~オの事例のうち、直接強制の方法によって債務者の債務の強制的実現を図ることができるものは、いくつあるか。
ア 銀行から500万円を借り入れた企業が、返済の期限が到来したにもかかわらず、返済をしない事例
イ 画家が、顧客との間で顧客の似顔絵を描く契約を結んだにもかかわらず、似顔絵を描こうとしない事例
ウ カラオケボックスの経営者と周辺住民との間で騒音をめぐって紛争が起こり、夜12時から朝10時まではカラオケボックスの営業をしないとの合意が両者の間で成立したにもかかわらず、夜12時を過ぎてもカラオケボックスが営業を続けている事例
エ ある者の名誉を毀損する記事を雑誌に掲載した出版社が、名誉毀損を理由として謝罪広告の掲載を命じる確定判決を受けたにもかかわらず、謝罪広告の掲載をしない事例
オ 建物の賃貸借契約が終了し、賃借人が建物を明け渡さなければならないにもかかわらず、賃惜人が建物を占有し続けている事例
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
5 五つ
解答 2つ
民法では、自力救済の禁止が原則です。
当事者である債権者自らが直接的に債権回収を強制的にできるとすると、過酷な取立てが行われたり、また権利者と偽るものが出てくるなど社会秩序が混乱するからなのです。
そのため、裁判所という公正かつ客観性のある第三者が必ず関与して、債権の回収をするようにしているのです。
民法上の直接強制とは、債務者の意思にかかわりなく直接に債権の内容を実現する強制方法をいいます。
債務者の作為・不作為を必要とする場合は、直接強制することができませんね。
要するに相手方の協力なしに、債権を実現するのが直接強制ですから、協力が必要とする行為等に対しては直接強制できないのです。
これを念頭に、本問をみると、イ・ウ・エは債務者の協力が必要ですね。
イは、債務者である画家に書いてもらわなければ意味がないですし、ウは、経営者が営業を中止しなければ、どうにもならないですね。
また、エは、出版社を監視して強制的に謝罪行為をさせるのは、強制労働になりえますから、奴隷的拘束・苦役からの自由(憲法18条)に反するのでできません。
残りのアは、金銭債権の回収、オは建物の引渡しですから、債務者の行為を必要とせずにできますね。
ですから、アとオが直接強制で実現できるものとなり、2が正解となるのです。