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憲法 統治 (H19-4) 


国家公務員法102条1項が、その禁止対象とする「政治的行為」の範囲の確定を、独立行政委員会である人事院にゆだねていることの是非をめぐっては、次のようにさまざまな意見があり得る。それらのうち、内閣が行う高度に政治的な統治の作用と、一般の国家公務員による行政の作用とは質的に異なるという見地に基づく意見は、どれか。


1 憲法が「行政権はすべて内閣に属する」と規定しているにもかかわらず、公務員の人事管理を内閣のコントロールが及ばない独立行政委員会にゆだねるのは、違憲である。

2 公務員の政治的中立性を担保するためには、「政治的行為」の確定それ自体を政治問題にしないことが重要で、これを議会でなく人事院にゆだねるのは適切な立法政策である。

3 人事院の定める「政治的行為」の範囲は、同時に国家公務員法による処罰の範囲を定める構成要件にもなるため、憲法が予定する立法の委任の範囲を超えており、違憲である。

4 国家公務員法で人事官の弾劾訴追が国会の権限とされていることから、国会のコントロールが及んでおり、人事院規則は法律の忠実な具体化であるといえる。

5 行政各部の政治的中立性と内閣の議会に対する政治責任の問題は別であり、内閣の所轄する人事院に対して国会による民主的統制が及ばなくても、合憲である。


解答 5


この問題は一読しただけでは、何を言っているのかよくわからない問題です。

しかし、この問題の内容がよくわからずとも、形式面からわかることがあります。

今までも何度も解説していますが、この問題も一肢選択問題かつ見解問題です。

そうすると、もっとも単純なものだと任意に3つの肢を選んで肢の方向性を検討すれば正解がでます。

「質的に異なるという見地に基づく意見」にあたる正解は1つしかないので、2つ以上同じ方向性のある見解があれば、それらは正解肢にならないことがわかります。

まず、問題文から「次のようにさまざまな意見があり得る」とありますから、選択肢には2つ以上の異なる意見があることがわかります。

次に、問題文から「それらのうち~質的に異なる…意見はどれか」とありますから、その見解を一つ見つければいいですね。

 しかし、この意見の意味がよくわからないなと思った場合どうしましょうか。

逆に考えればいいのです。

つまり、選択肢には、一つか二つの対立している意見があるのはわかりますから、共通意見をまず探すのです。

では、共通意見をどのように探せばよいでしょうか?

 各肢の文章の最後に着目してみましょう。

 具体的に本問でみていきます。

1 「違憲である」

2 「適切な立法政策である」

3 「違憲である」

4 「法律の忠実な具体化である」

5 「合憲である」

 以上の肢の部分から、結論として1と3が「違憲」である点で共通し、2と4と5が「合憲」である点で共通しているので、この2つの結論が対立していることがわかりますね。

 2と4が合憲であることはわかるでしょうか。

もう一度問題文をみてみましょう。

問題文を単純化すると、「国家公務員法102条1項が独立行政委員会にゆだねていることの是非」ですから、独立行政委員会と41条の話(国会中心立法)、つまり法律が規則に委任することの是非だということまでは問題文からおわかりいただけるのではないでしょうか。

そうすると、法律が規則に委任することが、2「適切な立法政策である」や4 「法律の忠実な具体化である」であるのは、法律が規則に委任しても問題ないという結論になりますね。

ですから、41条に反せず合憲であるとわかるわけです。

国会中心立法について理解していればここまではわかると思います。

これで、1と3が「違憲」グループであり、2と4と5が「合憲」グループということになります。

正解肢は一つですから、どちらかのグループに正解肢が入っていますが、どちらのグループを検討したらよいでしょうか。

 上記の通り少なくとも3つ選択肢を選んで、そのうち2つが同じ方向性であれば、残りの一つが正解肢になります。

違憲グループが2つしかないということは、論理的にこの中で方向性が逆になるものはないと考えられますね。

そうすると、おそらく合憲グループの中で、結論は共通するものの、理由が異なるものが含まれると予想できます。

ですから、3つある合憲のグループを検討してみましょう。

肢4=「国会のコントロールが及んでおり」

肢5=「国会による民主的統制が及ばなくても」

明らかに方向性が逆ですね。

そうすると、肢2がどちらの肢と同じ方向にあるかがわかれば、正解がでますね。

肢2=「適切な立法政策である」ということは、国会の判断に基づく政策ということですから、国会のコントロールが及んでいることが前提ですね。

ですから、合憲グループの中で肢2と4が同じ方向性となり、後は消去法で、5が正解肢となります。

このように「質的に異なる」という問題文と肢5の内容が合致しているかどうかがよくわからなくても正解できるのです。

このような解き方は、本問のように本番で何が問われているのかよくわからない問題に一番効果を発揮してくれると思いますので是非参考にしてみてください。

問題の内容は、上記の通り、法律にすべき内容を規則に委任しても合憲か違憲かという話ですが、テキストで解説した学説を知らずに理由だけで肢同士を厳密に比べていくと難しいでしょう。内容については、違憲グループと合憲グループに分けて簡潔に解説していきます。

(違憲グループ)

<肢1>

「行政権はすべて内閣に属する」ということを理由に違憲だという見解です。

つまり、人事院も行政機関の一種なのだから、内閣から独立した行政委員会など認めると、内閣を通じた国会による民主的コントロールも及ばなくなるから、違憲であるという見解です。

 これは、テキストの独立行政委員会と65条との学説では記載されていない違憲とする見解です。

なお、そもそも「行政権はすべて内閣に属する」と憲法では規定されていないので、これをもって誤りとしてもよいでしょう。

<肢3>

包括的な委任立法になることを理由に、違憲とする見解ですね。

つまり、本来立法は、唯一の立法機関である国会がすべきであるのに、法律の具体的な中身を決めずに人事院に丸投げするのは、人事院が立法することに等しいので、41条の趣旨を没却するという立場です。

一般の行政機関に対しては個別具体的な委任でなければなりませんから、この見解の通りです。

ですから、この見解は独立行政委員会と一般の行政機関も同じ内閣の支配下にあると考えるものですから、これも肢1と同様に違憲とする見解です。


(合憲グループ)

<肢2>

「適切な立法政策である」ということは、国会の判断に基づく政策ということですから、国会のコントロールが及んでいることが前提ですね。

テキストの独立行政委員会と65条との学説ではB1説にあたる見解です。

つまり、国会による直接的な民主的コントロールが及んでいるから65条に反しないとする説です。

人事院というのは、政治的に中立な機関だから、大枠は法律で決めて、後は人事院に具体的な中身を決めてもらったほうが、与野党の政治の紛争に巻き込まれなくて済むので、規則に委任しても立法政策として適切な手段であるという立場です。

規則に委任しても国会の民主的統制が働いているのだから、後は人事院という政治的な中立性のある機関に任せるかどうかは、立法政策だということですね。

<肢4>

国家公務員法で人事官の弾劾訴追が国会の権限とされていることから、合憲という立場ですね。

これもテキストの独立行政委員会と65条との学説ではB1説にあたる見解です。

国家公務員法という別の法律によって、国会の民主的統制が働いているのだから、多少包括的な委任でも問題ないという意味ですね。

<肢5>

「人事院に対して国会による民主的統制が及ばなくても、合憲である。」とあるので、これはB2説であることがわかるでしょう。

 つまり、国会による民主的コントロールが及ばなくても、裁判所のように政治的中立性・公平性が確保されているから規則へのある程度包括的な委任も許されるということです。

 以上より、

1 違憲説

2 B1説

3 違憲説

4 B1説

5 B2説

となります。

 

この問題を内容だけで解こうとすると、テキストで解説したような学説の知識が必要となってきます。

このような学説の知識を身に付けるのは結構大変だと思います。

これくらい深いところまで勉強しなければならないのではないかと錯覚してしまう問題です。

そうなると知識偏重型に陥ってしまい際限なく勉強すべき範囲は広がっています。

憲法だけでこうですから、民法や行政法のことまで考えると押しつぶされそうになります。

ですから、解説のためにこのような学説についてもテキストで詳細に説明していますが、このような学説を知らなくても、方向性で解けるということが本試験ではとても大事なことなのです。

そのため、必ず出題形式と問われ方には細心の注意を払ってください。

このように見解問題は、内容がよくわからなくても共通する部分でグループ化してしまえばかなりの確率で解けてしまうのです。

基本的な見解問題よりは、少し複雑ですが、同じ方向性をもったグループ分けを2回やればいいだけですね。

ですから、あまり難しく考えないで解いてみてください。

このように、一肢選択問題かつ見解問題=「仲間はずれを探せ」という解き方が使えるので参考にしてみてください。




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