行政法 国家賠償法 (H20-19)
国家賠償制度に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1 違法な行政庁の処分に対し国家賠償請求訴訟を提起して勝訴するためには、あらかじめ当該処分に対して取消訴訟または無効確認訴訟を提起し、取消しないし無効確認の判決を得て、当該処分が違法であることを確定しておかなければならない。
2 国家賠償法は、憲法17条の規定を受けて制定されたものであるので、日本国民と外国人とを区別せずに損害賠償を認めている。
3 国家賠償法は、国または公共団体の損害賠償責任について、補充的に「民法の規定による」としているが、民法典以外の失火責任法(失火ノ責任二関スル法律)や自動車損害賠償保障法なども、ここにいう「民法の規定」に含まれる。
4 行政事件訴訟法は、行政庁が取消訴訟の対象となる処分をする場合には、当該処分の相手方に対し、取消訴訟と併せて国家賠償法1条に基づいて国家賠償訴訟を提起することができる旨教示する義務を規定している。
5 国家賠償法は、憲法17条の規定を受けて制定されたものであるから、特別法において、公務員の不法行為による国または公共団体の損害賠償責任を免除し、または制限する規定を置くことは憲法違反であり、許されない。
解答 3
1 誤
「行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではない」(最判昭和36年4月21日)
さて、なぜ本問のように国家賠償請求訴訟の前提に取消訴訟等の判決を得ておく必要があるかどうかの問題がでるのでしょうか。
国家賠償請求が認められるためには、行政処分の違法性があることが前提となります。そのため、国家賠償請求訴訟では、行政処分の違法性の有無が審理の対象となるのです。それならば、先に処分の取消訴訟等の判決を得ておく必要があるのでは?という疑問が生じるので本問のような問題が出題されるのです。
しかし、国家賠償請求訴訟では、訴訟物=何が求められているかというと、簡単に言えば「被告は原告に対して金○○を支払え」という金銭の支払いです。この場合、この結論に至る過程で行政処分の違法性の有無が審理の対象にはなりますが、これ自体が直接の訴訟の目的ではなく、あくまでも金銭の支払いが目的です。
このように国家賠償請求訴訟は、民法の不法行為に基づく損害賠償請求と同様に給付訴訟ですから、民事訴訟手続きでなされます。
これに対して、処分の取消訴訟等では、訴訟の目的は、処分の取消あるいは無効確認そのものの形成訴訟であり、行政事件訴訟手続きでなされます。
また、仮に取消訴訟等の判決を得ておく必要があるとすれば、出訴期間が過ぎてしまった場合は、国家賠償請求もすることができなくなり、被害者の救済という趣旨が妥当しなくなります。このように、審理対象に共通する部分があっても、訴訟の目的が異なるので、別個独立の訴訟なのです。ですから、取消訴訟で違法であっても、国家賠償請求訴訟では違法ではないという場合もありえるのです。これを違法の相対性といいます。
そのため、前提として取消訴訟等の判決を得ておく必要はなく、直接国家賠償請求訴訟をすることができるのです。
2 誤
相互保証主義:「この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する」(国家賠償法第6条)。したがって、日本国民と外国人とを区別せずに損害賠償を認めているわけではない。
3 正
「国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による」(国家賠償法第4条)。この「民法の規定」には、民法典以外に失火責任法も含まれる(最判昭和53年7月17日)。
4 誤
教示のところでも勉強しましたが、行政庁が、取消訴訟を提起することができる処分を書面でする場合に教示する事項は①被告適格者②出訴期間③審査請求前置の定めがある場合のその旨の3点でしたね。
したがって、行政事件訴訟法において、国家賠償訴訟を提起することができる旨教示する義務を規定していないのです。
5 誤
「国又は公共団体の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる」(国家賠償法第5条)。
よって、特別法の制定や国賠責任を免除・制限する規定を置く事も許される。