行政法 地方自治法 (H20-24)
住民訴訟に関する次のア~エの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。
ア 教育委員会が教頭を退職前の1日だけ校長に任命した行為を前提に、地方公共団体の長が行った退職手当の支給は、任命行為が違法であるならば当然に違法となる。
イ 懲戒免職処分とすべきところを違法に分限免職処分とした上で行われた退職手当の支給は、当該分限免職処分が退職手当の支給の直接の原因であるから、当然に違法となる。
ウ 地方公共団体が随意契約の制限に関する法令に違反して契約を締結した場合には、当該契約に基づく債務の履行は当然に違法となる。
エ 県議会議長が発した議員の野球大会参加のための旅行命令書に基づき知事の補助職員が行った公金の支出は、当該旅行命令が違法であったとしても適法となる余地がある。
1 ア・イ
2 ア・ウ
3 ア・エ
4 イ・ウ
5 イ・エ
解答 5
これは、先の行為の違法性が後の行為に影響を及ぼすかというテーマの問題です。
このテーマを見抜けるかが大事なポイントとなってきます。
行政法でも勉強する違法性の承継の問題に類似するものです。
一つは、先の行為の違法性が後の行為に影響を及ぼさないという考え方です。
つまり、(1)先の行為と後の行為を別々に考えて、先の行為が違法であっても、その影響を受けないので、後の行為は適法となります。
もう一つは、先の行為の違法性が後の行為に影響を及ぼすという考え方です。
(2)先の行為と後の行為が一体不可分の関係にあれば、先の行為が違法であれば、後の行為が適法であっても、その影響を受けて、後の行為も違法となります。
具体的にいうと、住民訴訟は、違法な公金の支出などがあった場合に提起できるものです。
ですから、先の行為と後の行為とを一体的にみて違法な公金の支出といえるかどうかが問題となります。
イメージでいうと、二本のバナナのうち一本が腐っていた場合、もう一本にも影響するかどうかということです。
少し難しいかもしれませんが、一つ一つみていきましょう。
(肢ア)
2つの行為が出てきますね。一つは、教育委員会が教頭を退職前の1日だけ校長に任命した行為です。もう一つは、地方公共団体の長が行った退職手当の支給した行為です。住民訴訟の対象となるのは、形式的には後の行為です。つまり、地方公共団体の長が行った退職手当の支給した行為が違法なのかどうかです。
最判平成4年12月5日
「教育委員会が行った本件昇格処分及び本件退職承認処分を前提として、これに伴う所要の財務会計上の措置を採るべき義務があるものというべきであり、したがって、被上告人のした本件支出決定が、その職務上負担する財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものということはできない。」
つまり、先の行為と後の行為を別々に考えた上で、長の行為は先の行為を受けた義務であって、その職務上負担する財務会計法規上の義務を遂行したにすぎないので違法とならないということです。
ですから、(1)の場合となり、地方公共団体の長が行った退職手当の支給も、違法とならないのです。
教頭としての立場か校長としての立場の違いがあり、それが退職金の大小に影響するものの、どちらの立場であっても一定の退職金は支払われる点では同じなので違法とまではしなかったのでしょう。よって、誤りです。
(肢イ)
これも住民訴訟の対象となるのは、退職手当の支給についてです。
最判昭和60年9月12日
「懲戒免職処分とすべきところを違法に分限免職処分とした上で行われた退職手当の支給は、懲戒免職処分であれば退職手当の支給は発生せず、当該分限免職処分が退職手当の支給の直接の原因であるから、前者が違法であれば、後者も当然に違法となる」
分限免職処分とは、職責を十分に果たすことができない場合に職員としての身分を失わせる地方公務員法上の処分で、退職金は支払われます。
懲戒免職処分とは、職員に非違行為があったとき、その職員に対する制裁としてなされる処分をいい、退職金は支払われません。
このように、懲戒免職処分であれば退職手当の支給は発生しなかったわけですから、肢アと異なり、退職金が発生するかしないかに関わり、その影響の度合いが大きく、(2) の場合となるのです。
つまり、先の行為と後の行為が一体不可分の関係にあって、先の行為が違法であれば、後の行為が適法であっても、その影響を受けて、後の行為も違法となるのです。
ですから、懲戒免職処分とすべきところを違法に分限免職処分とした上で行われた退職手当の支給は、当該分限免職処分が退職手当の支給の直接の原因であるから、当然に違法となるのです。
よって、正しいです。
(肢ウ)
地方公共団体が随意契約の制限に関する法令に違反して契約を締結した行為と当該契約に基づく債務の履行行為と2つの行為があります。債務の履行行為が違法な公金支出となるかどうかです。
最判昭和62年5月19日
「当該契約が仮に随意契約の制限に関する法令に違反して締結された点において違法であるとしても、それが私法上当然無効とはいえない場合には、普通地方公共団体は契約の相手方に対して当該契約に基づく債務を履行すべき義務を負うのであるから、右債務の履行として行われる行為自体はこれを違法ということはできず、このような場合に住民が法二四二条の二第一項一号所定の住民訴訟の手段によって普通地方公共団体の執行機関又は職員に対し右債務の履行として行われる行為の差止めを請求することは、許されないものというべきである。」
これも肢アと同様に(1)の場合となります。
地方公共団体が随意契約の制限に関する法令に違反して契約を締結した行為と当該契約に基づく債務の履行行為とを別々の行為と考えて、先の行為が例えば、民法90条のように公序良俗違反による無効でなければ、その契約に基づく債務の履行は違法とならないということです。
イメージでいうと、錯誤無効があっても原則として本人が主張しないかぎり有効ですから、その契約に基づいて債務を履行しても、その履行行為自体は、違法とならないのと同じ理屈です。
よって、誤りです。
(肢エ)
これも県議会議長が発した旅行命令と知事の補助職員が行った公金の支出という2つの行為があります。当該旅行命令が違法であったとしても適法となる余地があるかどうかですから、(1)の場合があるかどうかを聞いています。
最判平成15年1月17日・最判平成17年3月10日
「県議会議長が発した議員の野球大会参加のための旅行命令書に基づき知事の補助職員が行った公金の支出は、当該旅行命令が違法であったとしても、野球大会の開催趣旨、長く参加してきた歴史やその目的を考慮して、直ちに財務会計法規上の義務に違反する違法なものということはできない。」
これは(1)の考え方を知っていれば、判例を知らなくても、旅行命令と公金の支出を別々の行為と考えて旅行命令が違法であても、それに基づく公金支出が適法となる場合もありえるということは予測できますね。よって、正しいです。
以上より、肢イとエが正しく、正解は、5です。
本問は、判例から導く問題だとすると難しい問題です。そういう意味では、間違えても仕方のない問題かもしれません。
ただ、全く手も足もでないかというと、ちょっとした解法テクニックはあります。各文章の語尾をみてください。
肢エ以外は「当然に違法」となっていますね。肢エのみ「適法となる余地がある」となっています。
どちらが正となる確率が高いでしょうか。「当然に違法」ということは、逆にいうと、「適法となる余地がない」ということです。
今まで勉強してきたとおり、法律には、原則があればほぼ必ず例外があるのが一般的です。原則しかないということはほとんどありません。
ですから、「当然に違法」や「常に無効」という語尾の問題は誤っている推定が働くわけです。
これに対して、「適法となる余地がある」というのは、一つでも適法となる事例があればいいわけですから、肢エの方が他の肢よりも正となる確率が高いですね。
これで、解答肢は3か5に絞られます。語尾だけで正解率50%まで絞れます。
後はアとイで比較して、どちらが当然に違法になりやすいか判断すればよいのです。
アの内容がよくわからなくても、分限免職処分と懲戒免職処分の違いが退職金の有無であるかどうかがわかれば、イは、本来もらえないものをもらっているので当然違法かなと推測できるでしょう。
実際、私がこの問題を初めて解いたときは、判例まで知らなかったので、このように解いて何とか正解はできました。
このように、問題は正攻法で解けばいいわけではなく、未知の組合せ問題ならば、このような語尾に着目した解き方もできるということを覚えておきましょう。
内容がわからなくても、適当にマークするのではなく、出題形式と語尾をヒントに肢を切れるだけ切って何とか正解率を上げる努力をしましょう。
択一問題では、正解率を上げることが重要なので、その場でできることは何でもトライして貪欲に点数をとる手段も身につけておきましょう。参考にしてみてください。