民法 債権 (H20-30)
Aは、自己所有の土地につき、Bとの間で賃貸借契約を締結した(賃借権の登記は未了)。
AがBにこの土地の引渡しをしようとしたところ、この契約の直後にCがAに無断でこの土地を占拠し、その後も資材置場として使用していることが明らかとなった。
Cは明渡請求に応ずる様子もないため、AとBは、Cに対して次のア~オの法的対応を検討している。これらの対応のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア Aが、Cの行為を不法行為として損害賠償請求をすること。
イ Aが、自己の土地所有権に基づき土地明渡請求をすること。
ウ Bが、自己の不動産賃借権に基づき土地明渡請求をすること。
エ Bが、占有回収の訴えに基づき土地明渡請求をすること。
オ Bが、AがCに対して行使することができる、所有権に基づく土地明渡請求権を代位行使すること。
1 ア・イ・オ
2 ア・ウ・エ
3 イ・ウ・エ
4 イ・エ・オ
5 ウ・エ・オ
解答 1
本問は「法的対応」が問われていますが、もう少し具体的には何を問われているのでしょうか。
それは解答の選択肢を見れば予想がつくと思います。
契約関係があれば、契約に基づく土地の明渡請求ができますね。
例えば、AがBに対して賃貸した土地をまだ明渡していなければ、Bは賃貸借契約に基づいて土地の明渡請求をAに対してすることができます。
ところが、AC間およびBC間には契約関係がありませんね。
ですから、契約に基づく請求はできず、それ以外の方法で請求するのです。
このように本問では契約関係がない当事者への請求についてどういうものがあるのかが問われており、これが出題の意図です。
本問の民法上の請求についても、①誰が誰に対して②どのような権利に基づいて③どのような請求ができるのかということをまず確定させることが重要です。
具体的には、物権に基づく請求=物権的請求権、占有に基づく請求=占有訴権、不法行為に基づく請求権、物権的請求権の代位行使が問われているのです。
主体が異なれば、請求方法も異なるので、まずは所有権者であるAのCに対する請求から検討していきましょう。
請求ができるかどうかは効果ですから、後はそれぞれの請求が認められるための要件を一つ一つ検討していけば正解を導くことができるはずです。
ア 正
Cの行為が不法行為にあたれば損害賠償請求できますから、不法行為かどうかを検討すればよいのです。
不法行為の条文を参照しながら、事実にあてはめてみましょう。
「故意又は過失によって」
=CがAに無断でこの土地を占拠し、その後も資材置場として使用しているので、故意あるいは少なくとも過失はありますね。
よって、この要件は満たします。
「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、」
=Aの所有権ある土地をCが何ら権限なく使用しているのですから、土地を利用する利益が侵害されていますね。
よって、この要件は満たします。
「これによって生じた損害」
=Cの侵害によって、Bが賃借することができなくなっており、Bから得られるはずの家賃収入が得られなくなっていますね。
よって、この要件は満たします。
以上から、Cの行為は、不法行為にあたり、Aは損害賠償請求することができます。
イ 正
Aは所有権者ですから、土地に対して独占排他的権利を有しています。
ですから、Aの土地を無断で使用するCに対して所有権に基づく土地明渡請求をすることができます。
この問題自体は組合せ問題なので、ここまで肢が切れると正解がでてしまう簡単な問題ですが、個数問題として聞かれても解けるようにしておくのが賢明です。
ウ 誤
次に、賃借人であるBのCに対する請求について検討していきましょう。
Bには賃借権があるので、これに基づいて土地の明渡請求ができないでしょうか。
何となくあっさりできそうな気もしますが、ちょっと待ってください。
賃借権というのは、所有権等と同じような物権でしょうか。違いますね、あくまでも特定の相手方に対して請求することができる債権です。
そうすると、物権的請求権に基づく請求等はできないはずです。
しかし、賃借権が対抗要件を備えていれば、第三者に対しても賃借権を主張することができるので物権である地上権に類似する性質を有していますね。
このように、不動産賃借権には物権化傾向があります。
そこで、対抗要件があることを条件に、賃借権に基づく返還請求等が認められるのです。
対抗要件は、土地賃貸借の場合は土地賃借権の登記、建物所有目的の土地賃貸借の場合は建物の登記であり(借地借家法10条)、建物の場合は引渡しなのです(借地借家法31条)。
これを本問でみてみると、土地賃貸借の場合なので、Bが土地賃借権の登記をしていない以上、対抗要件を備えていません。ですから、Bは賃借権に基づいて土地明渡請求をすることはできないのです。
エ 誤
占有訴権の一つである占有回収の訴えができるためには、占有しているものを侵奪されなくてはなりません(200条)。
Cは土地を無断で占拠しているので侵奪しているといえそうです。
しかし、占有というのは、事実状態に基づくものですから、Bが土地の引渡しを受ける前にCが占拠したということは、Bには占有の事実がありませんね。
ですから、Bが占有している土地を侵奪されたわけではないので、占有回収の訴えをするための要件を満たしません。
なお、Aには占有の事実があり、Cに侵奪されていますので、Aは占有回収の訴えに基づき土地明渡請求をすることができます。
オ 正
この事例で、AがCに対して所有権に基づく土地明渡請求権および占有回収の訴えに基づき土地明渡請求をせずに放置していた場合、Bは賃借権に基づく明渡請求もできないので一体どうしたらよいでしょうか。
こういう場合に考えられるのが債権者代位権です。
ただし、BのAに対する被保全債権は金銭債権ではなく賃借権ですから、いわゆる転用事例ですね。
本問において、AB間では、Aの土地を賃借する契約を締結しているので、本来AはBに対して賃貸借契約に基づきその土地を引き渡さなければなりません。
しかし、まだその土地の引渡しが行われていない状態のもとで、Cが権原なく土地を占有してしまっています。
この場合、土地の所有者たるAはCに対して、土地の返還請求ができますが、それをせずに放置していれば、Bは土地を使用することができず賃貸借契約の目的を達成することができません。
そこで、BはAに対して有する賃借権を保全するために、債権者代位権を転用するのです。
Bの被保全債権たる賃借権は、金銭債権ではありませんが、自己の賃借権を保全する必要性があります。
また、賃借権は、特定の土地を利用する権利ですから、Aに他の金銭的な財産があったとしても、Bにとっては何も意味がないですから、Aの無資力は問題になりません。
それゆえ、債権者代位権を転用して、Bは賃借権の保全のために、Aに代位してCに対する土地の明渡請求権を行使することができるのです。
なお、肢オの類似問題として、H17問題27肢エがあるので参照してみてください。
以上より、ア、イ、オが正しく、1が正解肢となります。