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憲法 統治 (H20-5) 


国家機関の権限についての次のア~エの記述のうち、妥当なものをすべて挙げた組合せはどれか。


ア 内閣は、実質的にみて、立法権を行使することがある。

イ 最高裁判所は、実質的にみて、行政権を行使することがある。

ウ 衆議院は、実質的にみて、司法権を行使することがある。

エ 国会は、実質的にみて、司法権を行使することがある。


1 ア・ウ

2 ア・イ・エ

3 ア・ウ・エ

4 イ・ウ・エ

5 ア・イ・ウ・エ


解答 5


出題形式は組み合わせ問題ですので是非とも正解したいところです。


内容面として、この問題の出題意図の一つは、問題文から想起される具体的な条文を思い出せるかどうかを聞いています。

つまり、条文のあてはめが出題意図です。

本問が以下のような問題であったなら、全て過去問に出題されているので簡単に感じたと思います。


『国家機関の権限についての次のア~エの記述のうち、妥当なものをすべて挙げた組合せはどれか。

ア 内閣は、政令を制定することができる。

イ 最高裁判所は、下級裁判所裁判官の指名権を有する。

ウ 衆議院では、議員の資格争訟の裁判をすることができる。

エ 国会は、弾劾裁判所の設置をすることができる。

1 ア・ウ

2 ア・イ・エ

3 ア・ウ・エ

4 イ・ウ・エ

5 ア・イ・ウ・エ』


本問は、この問題を単に抽象化しただけの問題です。

要するに具体的な条文を想起してあてはめることができるかを聞いている問題です。

問われ方が異なるだけで難しく感じるのは、問題文だけをみて直ちに判断できる問題ではないからです。

例えば、「ア 内閣は、実質的にみて、立法権を行使することがある。」の問題を一度自分の頭の中で「ア 内閣は、政令を制定することができる。」に置き換えなければ正誤の判断がつかないので、このあてはめに一手間かかる分だけ上記の具体的な問題より難しく感じる問題となっているのです。

ですから、具体的な条文を思い出せたかどうかが鍵となりますね。個別にみていきましょう。

(ア) 正

立法権を行使することができるのは、立法府たる国会のみが原則です。

しかし、専門技術的な事項のために、法律の細部まですべて国会が決定することができない場合があります。

国会議員は国民の代表者ではありますが、どの分野にも精通しているわけではありません。

むしろ行政の方が特定分野についての専門性を有している場合があります。

また、国会の審議等には、時間がかかるので、迅速に法律を制定する必要がある場合には、国会で細部まで決めるのは適切とはいえません。

そのため、このような場合は、法律で大枠を定めて、後は内閣を含めた専門省庁に委任して細部の政令、省令等を作成してもらった方が国民の権利・自由に資するのです。

ですから、法律の委任があれば、行政であっても立法権を行使することができるのです(73条6号)。

立法権行使の原則に対する例外を聞いている問題ですね。 

よって、正しいです。

(イ) 正

行政権というのは、立法権と異なり、内閣を頂点とする行政に独占されているものではないので、あらゆる国家機関ですることができます。

司法権は独立しているので(76条3項)、司法における人事などの行政事務も当然自分たちで決定しなければなりません。

このような最高裁判所の行政事務の一つが下級裁判所裁判官の指名です(80条1項)。

他には、下級裁判所および裁判所職員を監督する司法行政官監督権があります(裁判所法80条)。

よって、正しいです。

(ウ) 正

権力分立の下では、二院制も国会において一院に立法権が集中しないように二院にして権力を分散させているのです。

ですから、各議院には自律権があるのです。

この議院の自律権の中には、内部組織に関する自律権と運営に関する自律権があります。

内部組織に関する自律権の中には、①議員の資格争訟の裁判②会期前に逮捕された議員の釈放要求③役員選任権などがあります。

また、運営に関する自律権の中には、①議院規則制定権や議員懲罰権などがあります。

議員の資格争訟の裁判は、当選したものの議員としての資格(被選挙権など)が実はなかった場合に、その資格を争って出席議員の3分の2以上の多数の議決でその議員の議席を失わせる裁判なので司法権の行使にあたります(55条)。

各議院による裁判が終審となるので、この裁判に対する救済を裁判所に対して求めることはできません。

裁判所の司法権が及ばない憲法上の例外にあたります。

このように、自律権として司法権の行使をすることができるのです。

よって、正しいです。

(エ) 正

司法権は独立しており、裁判官の身分を保障しています(76条3項)。

例えば、この身分の保障されている裁判官が犯罪を行った場合、もちろん刑事裁判で裁かれますが、裁判官の地位そのものは失いません。

犯罪をおこなった裁判官が引き続き裁判をするのは、国民の信頼を害しますね。また、犯罪とまでいえなくても、以下の罷免事由に該当する行為をした場合、つまり、①裁判官が職務上の義務に著しく違反しまたは職務を甚だしく怠ったとき、および②その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったときは罷免されるべきですね。

では、このような行為を行った裁判官の罷免は、どの機関がするのが妥当なのでしょうか。

裁判所が身内を処分するのは、仮に適切になされたとしても国民の目から見るとどうしても信用できない部分が生じます。

ですから、国民の信頼を確保するためには、裁判所とは別の機関がすべきなのです。

裁判官も公務員ですから、国民による公務員の選定、罷免に関する規定が適用されるのです(15条1項)。

そのため、国民の代表者からなる国会が裁判官を罷免するために弾劾裁判所を設置すると規定されているのです(64条)。

そして、「弾劾に関する事項は、法律でこれを定める(64条)」とありますが、この法律とは国会法、裁判官弾劾法を指します。

具体的には、両議院の選挙によって選ばれた議員が裁判員として裁判するのです。

また、弾劾裁判をするには、訴追するために検察の役割をする訴追委員会の設置も必要であり、両議院の選挙によって選ばれた議員で訴追委員を組織します。

このように、裁判官の罷免については、国会議員で組織する弾劾裁判所による独立・公正な判定に委ねるのが国民の信頼を確保する上で適切なのです。

この弾劾裁判所は、憲法が定めた例外的な特別裁判所なのです(76条2項)。

そうすると、設問のように国会による司法権の行使とは、弾劾裁判所を設置するのみならず、両議院の議員による訴追・裁判までも含む行為を指すと思われます。

ただ、この訴追委員、裁判員という知識は少し細かいので、憲法の条文にある国会の弾劾裁判所の設置(64条)についてまず押さえましょう。

 よって、国会は、実質的にみて、司法権を行使することがあるので正しいですね。

 以上より、この問題は全て正しいので、正解は5となります。


なお、三権分立の歴史的意義がわかっていれば、一瞬で正誤の判断ができる(別解)もありますが、それは演習問題の解説を読んでおいてください。




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