憲法 人権 (H21-4)
次の手紙の文中に示された疑問をうけて、これまで類似の規制について最高裁判所が示した判断を説明するア~オの記述のうち、妥当なものの組合せはどれか。
前略大変ご無沙汰しております。
お取り込み中申し訳ありませんが、私の進路選択について、折り入って貴兄にご相談したいことができました。演劇三味だった学生生活を切り上げて、行政書士をめざして勉強を始めたのですが、最近、自らの職業選択が抱える不条理に、少々悩んでおります。
行政書士になりたい私が、試験に合格しなければ行政書士になれない、というのは、職業選択の自由という、私のかけがえのない人権の侵害にはあたらないのでしょうか。他方で、もし行政書士になれたとしても、行政書士法1条の2で行政書士の独占業務とされている書類の作成に関する限り、他者の営業の自由を廃除しているわけですから、私は、かけがえのない人権であるはずの、他人の職業選択の自由を侵害して生きることになるのでしょうか……。
拝復 お悩みのご様子ですね。行政書士業を一定の資格要件を具備する者に限定する以上、それ以外の者の開業は禁止されるのですから、あなたのご疑問にはあたっているところもあります。問題はそうした制限を正当化できるかどうかで、この点は意見が分かれます。ご参考までに、最高裁判所がこれまでに示した判断についてだけ申しますと、
ア 医薬品の供給を資格制にすることについては、重要な公共の福祉のために必要かつ合理的な措置ではないとして、違憲判決が出ていますよ。
イ 小売市場の開設経営を都道府県知事の許可にかからしめる法律については、中小企業保護を理由として、合憲判決が出ていましたよね。
ウ 司法書士の業務独占については、登記制度が社会生活上の利益に重大な影響を及ぼすものであることなどを指摘して、合憲判決が出ています。
エ 公衆浴場を開業する場合の適正配置規制については、健全で安定した浴場経営による国民の保健福祉の維持を理由として、合憲とされていますね。
オ 酒販免許制については、職業活動の内容や態様を規制する点で、許可制よりも厳しい規制であるため、適用違憲の判決が下された例があります。
1 ア・イ・ウ
2 ア・イ・エ
3 イ・ウ・エ
4 イ・ウ・オ
5 ウ・エ・オ
解答 3
この問題は、単純知識問題です。
ただし、全ての判例についての知識は不要です。
この問題を解くのに最低限必要な知識は、テキストでも勉強した薬事法距離制限事件判決だけです。
というのは、職業選択の自由に対する規制に関する違憲判決は薬事法距離制限事件判決だけだからです。
つまり、職業選択の自由に対する規制は、立法府の判断が尊重され、合憲性の推定が及ぶので、よほどのことがない限り合憲判決となります。
これを押さえていれば、後は選択肢の違憲判決という文言に着目して肢を切ればよいのです。
違憲判決は薬事法距離制限事件判決だけなのでオは明らかに誤りです。
アはひょっとすると薬事法距離制限事件判決のことだと思って迷ったかもしれませんが、ここで迷うのは知識があやふやだからです。
薬事法距離制限事件判決では距離制限について違憲であるとされたのです。
医薬品の供給を資格制にすることについてではありません。
これでアとオが誤りとなるため消去法で正解は3となります。
このように、この問題を解くには、①職業選択の自由に対する規制に関する違憲判決は薬事法距離制限事件判決のみであり、②違憲となったのは距離制限についての部分であるということだけが必要なのです。
逆に言うと、選択肢にある残りの判例に対する知識はなくても答えはでるということです。
このように重要な判決をしっかり押さえていればそれだけで答えがでるのです。
まさに「少ない確実な知識だけで問題が解ける」という典型的な問題です。
ですから、この問題を間違えた場合、上記①②の知識を確実にすることが先決であって、余裕があれば別ですが、他の肢の判例を読み込んで知識を増やすという勉強をしているとまた知識があやふやなまま試験を迎えて簡単な問題で間違えるということになりかねませんので気をつけるようにしてください。
なお、この問題の手紙の部分は職業選択の自由に関する判例であることの示唆に過ぎず、問題を解くためのヒントにはあまりなっていないようです。
選択肢だけをみても職業選択の自由に関連する肢だとわかればそれで答えはでます。
ですから、まずは選択肢だけみて答えがでるかどうか判断し、選択肢だけでは答えがでないような場合にこのような問題文を読んでヒントを探すという解き方の方が時間的な節約になると思います。
律儀に上から読む癖のある方は、今年から意識して変えたほうがより得点に結びつくかもしれませんので試してみてください。
また、選択肢オで適用違憲という言葉出てきていますので簡単に解説しておきます。
適用違憲とは、法令自体は合憲であるが、その法令を当該事件の当事者に適用する限りにおいて違憲とするものです。
これに対し、法令違憲とは、法令自体が憲法に違反していることです。
薬事法距離制限事件判決は法令違憲にあたります。
両者の判断手法は、法令自体を合憲とするか違憲とするかという点で異なっています。
この法令違憲を回避する手法として、前回明確性の理論のところで勉強した合憲限定解釈という方法があります。
条文の文言そのまま解釈すれば不明確のため明確性の理論から無効になりそうなところを、条文の文言を限定して解釈することで明確な意味にし、出来るだけ法令違憲を避けるようにする方法です。これも合わせて押さえておきましょう。