憲法 人権 (H21-6)
次の文章は、ある最高裁判所判決の一節である。この文章の趣旨と適合しないものはどれか。
憲法23条の学問の自由は、学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由とを含むものであって、同条が学問の自由はこれを保障すると規定したのは、一面において、広くすべての国民に対してそれらの自由を保障するとともに、他面において、大学が学術の中心として深く真理を探究することを本質とすることにかんがみて、特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたものである。
教育ないし教授の自由は、学問の自由と密接な関係を有するけれども、必ずしもこれに含まれるものではない。
しかし、大学については、憲法の右の趣旨と、これに沿って学校教育法52条(当時。現在の同法83条。)が「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究」することを目的とするとしていることに基づいて、大学において教授その他の研究者がその専門の研究の結果を教授する自由は、これを保障されると解するのを相当とする。
すなわち、教授その他の研究者は、その研究の結果を大学の講義または演習において教授する自由を保障されるのである。そして、以上の自由は、すべて公共の福祉による制限を免れるものではないが、大学における自由は、右のような大学の本質に基づいて、一般の場合よりもある程度で広く認められると解される。(最大判昭和38年5月22日刑集17巻4号370頁以下)
1 大学における学生の集会は、大学の公認した学内団体であるとか、大学の許可した学内集会であるとかいうことのみによって、特別な自由と自治を享有するものではない。
2 大学の自治は、とくに大学の教授その他の研究者の人事に関して認められ、大学の自主的判断に基づいて教授その他の研究者が選任される。
3 遺伝子技術や医療技術など最新の科学技術に関わる研究の法的規制は、それが大学で行われる研究に関わるものであっても、一定の要件の下で許されうる。
4 学問の自由は、広くすべての国民に対して保障されるものであるため、研究費の配分に当たって大学の研究者を優遇することは許されない。
5 大学の自治は、その施設と学生の管理についてもある程度で保障され、大学に自主的な秩序維持の権能が認められている。
解答 4
本問は、東大ポポロ事件判決からの出題です。
ただ、このように判例がわざわざ記載されている場合は、その判例の中にヒントが隠されていることが多いです。
そのため、知識で解くよりも記載されている判例から正解を導く方が素直といえるでしょう。
判例の記載のヒントは以下の部分です。
「憲法23条の学問の自由は・・・一面において、広くすべての国民に対してそれらの自由を保障するとともに、他面において、大学が学術の中心として深く真理を探究することを本質とすることにかんがみて、特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたものである。」
この部分から明らかなように、憲法23条の学問の自由は、特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたものですね。
そうすると、この部分に適合しないのは、明らかに4ですね。
「学問の自由は、広くすべての国民に対して保障されるものであるため」という前半部分は、上記の判例の「一面において、広くすべての国民に対してそれらの自由を保障するとともに」の部分と合致しています。
しかし、「研究費の配分に当たって大学の研究者を優遇することは許されない。」という部分が、「特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたもの」という部分と合致しませんね。
特に大学における学問の自由を保障するために、研究費の配分に当たって大学の研究者を優遇することは許されるはずでしょう。
研究費が多ければ研究がより進むことになるからです。
ですから、これが正解肢となります。
逆に残りの肢1、2、5については、大学の自治の内容と東大ポポロ事件の判例を知らないと消去できないものです。
肢1ついては、ポポロ事件において、学生は大学の施設利用者にすぎないということを知っている必要があります。そのため学生の集会は大学の自治を享有できるものではないのです。
肢2については、大学の自治の内容として①人事の自治があることを知っている必要があります。
肢3については、学問の自由も公共の福祉による制約を伴うという一般的な考え方からあてはめてみると正しいことはわかるでしょう。
つまり、まず大学における学問の自由は憲法上保障されています。
しかし、遺伝子技術や医療技術など最新の科学技術に関わる研究というのは、既存の研究の集積がいまだ少ないためどのような結果が生じるかどうかはわからないのです。
一度実験すると元に戻らない不可逆的で、予測のつかない危険な結果を生じることももちろんあるでしょう。
ですから、一定の制約を伴っていてもやむを得ないのです。そのため、安全などに配慮した一定の要件の下で許容されるのです。
肢5は、大学の自治の内容として②施設の管理の自治、③学生の管理の自治があることを知っている必要があります。
このように、本問を解く上では、肢4しかこの記載された判例から正誤を判断できない点でズバリこの肢が誤りだと気づいてほしいところです。
いずれにしても問題文は必ず読んでヒントがないかどうか探すようにするくせをつけておきましょう。
なお、このような判例に全くヒントがみつからないような問題もありますが、その場合は逆に基本的な知識だけを聞いているということです。