民法 物権 (H22-29)
A・B・Cの3人が、甲土地、乙土地、丙土地のすべてについて、どれも3分の1ずつの持分権をもって共有している場合の共有物分割に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定及び判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができるから、たとえA・B・Cの間で5年間の共有物分割禁止の契約があった場合でも同契約は無効であり、Aは、BおよびCに対して甲土地、乙土地および丙土地の分割を請求することができる。
イ Aが、BおよびCに対して、甲土地、乙土地および丙土地の分割を請求した場合において、裁判所は、これらを一括して分割の対象としてAが甲土地、Bが乙土地、Cが丙土地というように各土地を単独所有とする分割方法をとることができる。
ウ Aが、BおよびCに対して、甲土地、乙土地および丙土地の分割を請求した場合において、裁判所は、乙土地および丙土地については共有関係を解消せず、Aに対してのみAの持分権に相当する甲土地を取得させ、乙土地および丙土地はBとCの共有として残すとする分割方法をとることができる。
エ Aが、BおよびCに対して、甲土地、乙土地および丙土地の分割を請求した場合において、裁判所は、Aの申立てがあれば、甲土地、乙土地および丙土地をAの単独所有とし、BおよびCに対してAから各自の持分権の価格を賠償させる方法をとらなければならない。
オ 甲土地、乙土地および丙土地についてのBおよびCの共有持分権がDに譲渡された場合には、その旨の移転登記がないときでも、Aは、BおよびCに対しては甲土地、乙土地および丙土地の分割を請求することはできない。
1.ア・イ
2.ア・オ
3.イ・ウ
4.ウ・エ
5.エ・オ
解答 3
ア 誤
共有というのは一つの物に対して複数の権利がある状態なので一物一権主義の例外です。
一物一権主義の原則を維持するため、単独所有とする方が、法律関係が複雑化しないので、できれば共有状態というのは解消した方が望ましいと考えられています。
そのため、原則としていつでも分割請求もできるのです。
ただし、5年を超えない範囲で不分割特約を締結することは可能です。
したがって、5年間の共有物分割禁止の契約があった場合、同契約は有効であり、Aは、分割を請求することはできないのです。
なお、できるだけ、共有状態は解消した方が望ましいため、5年間を超える不分割特約は無効です。
イ 正
共有者間の合意が形成できない場合は、裁判において共有物の分割請求をすることができます。
共有物分割請求の裁判の場合には、協議の場合と異なり、公平の見地から現物分割が原則です。
したがって、Aが甲土地、Bが乙土地、Cが丙土地というように各土地を単独所有とする分割方法をとることができます。
ウ 正
共有物分割請求の裁判の場合には、協議の場合と異なり、公平の見地から現物分割が原則です。
その一種として、共有者の一人に対してのみ持分の限度で現物分割し、その残りは他の者の共有として残すことも許されるのです。
したがって、Aに対してのみAの持分権に相当する甲土地を取得させ、乙土地および丙土地はBとCの共有として残すとする分割方法をとることができるのです。
エ 誤
価格賠償とは、共有者の一人が共有物の単独所有者となり、その者が他の共有者だった者に対して持分についての価格を賠償するという方法です。
裁判上の価格賠償については、民法には明確な規定がないのですが、判例上一定の要件のもと認められています(最判平成8年10月31日)。
全面的価格賠償については、①共有物の性質等の事情を総合考慮し全面的価格賠償の方法が不公平とならないこと、②持分価格が適正に評価されていること、③取得者(賠償者)に支払い能力があることを条件に認めています。
したがって、裁判所は、Aの申立てがあれば、必ず全面的価格賠償をしなければならないわけではないので誤りです。
オ 誤
不動産に関する物権の得喪及び変更については、登記をしなければ、第三者に対抗することができないとあります。得喪とは、取得と喪失の意味です。例えば、売買では、買主は不動産の所有権を取得し、売主は不動産の所有権を喪失します。
取得と喪失のどちらの場合も第三者に対抗するためには、登記が必要であるということです。
したがって、BおよびCの共有持分権がDに譲渡された場合には、その旨の移転登記がなければ、DはAに対してBおよびCの共有持分の取得を対抗することができません。
また、BおよびCも登記がない以上Aに対してその共有持分の喪失を対抗することができません。
その結果、Aにとっては、分割請求の相手方はなおBおよびCということになるのでAは、BおよびCに対して、甲土地、乙土地および丙土地の分割を請求することができるのです。
以上より、イとウが正しいので正解は3となります。