商法・会社法 (H22-38)
新株予約権に関する次のア~オの記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
ア 新株予約権と引換えに金銭の払込みを要する募集新株予約権を発行する場合において、募集新株予約権の割当てを受けた者は、払込期間中または払込期日に払込金額の全額を払い込んだときに、新株予約権者となる。
イ 募集新株予約権の行使に際して出資する金銭その他の財産の価額が新株予約権を引き受ける者に特に有利な金額であるときには、募集新株予約権の募集事項は、株主総会の特別決議により決定しなければならない。
ウ 募集新株予約権の発行が法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときには、株主は、会社に対して募集新株予約権の発行をやめることを請求することができる。
エ 新株予約権付社債を有する者は、新株予約権付社債についての社債が消滅した場合を除いて、新株予約権付社債に付された新株予約権のみを譲渡することはできない。
オ 新株予約権と引換えに金銭の払込みを要する募集新株予約権の払込金額は、新株予約権が行使されるか否かにかかわらず、その全額を資本金に計上しなければならない。
1 ア・イ
2 ア・オ
3 イ・ウ
4 ウ・エ
5 エ・オ
解答 4
本問においてはアとウが比較的簡単だったと思われますのでアとウから解説していきます。
(肢ア) 誤
募集株式発行手続のところでも勉強した通り、金銭の払込みをした日に株主になります(209条)。
ですから、問題文の「払込期日に払込金額の全額を払い込んだときに、新株予約権者となる。」という部分が誤りであることに気がついていただきたかったです。
なお、新株予約権者となるのは、募集新株予約権の割当てを受けた割当日です(会社法第245条)。
(肢ウ) 正
テキストに記載があるとおり、新株予約権を行使することで新株が発行されるので、募集株式発行で勉強したことがそのまま新株予約権にもあてはまります。
ですから、募集株式発行の差止請求ができるのと同様に法令又は定款に違反する場合又は著しく不公正な方法により募集新株予約権の発行がなされる場合、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、その差止請求をすることができます(247条)。
よって、ウは正しいです。
(肢エ) 正
テキストに記載してあるとおり、新株予約権付社債は、一体的なものであるため、どちらかを分離して譲渡することは原則としてできません(254条)。この原則がわかっていれば、「新株予約権付社債についての社債が消滅した場合を除いて」の部分が正確にわからなくても正解と判断できたのではないでしょうか。
「新株予約権付社債についての社債が消滅した場合を除いて」の部分は少し細かいですが、その通りですので押さえておいてください。
社債が消滅してしまえば、もはや新株予約権付社債ではなく、単なる新株予約権になるからです。
逆に新株予約権が消滅してしまえば、もはや新株予約権付社債ではなく、単なる社債になるので譲渡できます。条文を載せておきます。
第254条
1 新株予約権者は、その有する新株予約権を譲渡することができる。
2 前項の規定にかかわらず、新株予約権付社債に付された新株予約権のみを譲渡することはできない。ただし、当該新株予約権付社債についての社債が消滅したときは、この限りでない。
3 新株予約権付社債についての社債のみを譲渡することはできない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権が消滅したときは、この限りでない。
(肢イ) 誤
これは少し細かいですが、特に有利な金額の対象となるのは、新株予約権自体の発行価額であって、新株予約権を行使して出資する金銭その他の財産の価額(権利行使価額)ではありません(238条1項2号3号)。
第238条
1
二 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
三 前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権一個と引換えに払い込む金銭の額をいう。以下この章において同じ。)又はその算定方法
2 募集事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
3 次に掲げる場合には、取締役は、前項の株主総会において、第一号の条件又は第二号の金額で募集新株予約権を引き受ける者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
一 第一項第二号に規定する場合において、金銭の払込みを要しないこととすることが当該者に特に有利な条件であるとき。
二 第一項第三号に規定する場合において、同号の払込金額が当該者に特に有利な金額であるとき。
なお、新株予約権自体の発行価額および権利行使価額の合計が新株発行価額となります。
(肢オ) 誤
上記の通り、新株予約権自体の発行価額および権利行使価額の合計が新株発行価額となり、この払込み額については、その二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができます。
この場合、資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければなりません。
第445条
1 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
2 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
3 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。