基礎法学 (H23-2)
わが国の裁判制度に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 わが国の裁判制度は、三審制を採用していることから、高等裁判所が第一審裁判所になることはない。
2 民事訴訟または刑事訴訟のいずれであっても、第一審裁判所が簡易裁判所である場合には、控訴裁判所は地方裁判所となり、上告裁判所は高等裁判所となる。
3 裁判官が合議制により裁判を行う場合には、最高裁判所の裁判を除いて、裁判官の意見が一致しないときであっても、少数意見を付すことはできない。
4 刑事訴訟においては、有罪判決が確定した場合であっても、あらたに証拠が発見されるなど重大な理由があるときには、有罪判決を受けた者の利益のために再審を行うことができるが、民事訴訟においては、再審の制度は認められていない。
5 家庭裁判所は、家庭に関する事件の審判および調停ならびに少年保護事件の審判など、民事訴訟や刑事訴訟になじまない事件について権限を有するものとされ、訴訟事件は取り扱わない。
解答 3
1 誤
行政審判における裁決等がなされると、行政審判における裁決等の取消訴訟については、通常の三審制における第一審としての地方裁判所ではなく第二審のあたる高等裁判所から始める場合もあります。
例えば、特許無効審判がなされ、その審決を裁判で争うために、その審決取消訴訟がなされた場合、東京地方裁判所ではなく、東京高等裁判所でなされます。
この場合、裁判所における裁判という点からすると東京高等裁判所が第一審ということになります。
2 誤
民事事件では、第一審と第二審は続審です。
続審とは、下級審の審理を基礎としながら、上級審においても新たな訴訟資料の提出を認めて事件の審理を続行して判決をすることです。
つまり、一審でやったことの続きとして審理しましょうということです。もう一度、始めから審理をしなおすわけではなく、既にやったことはやり直さないで他に調べるべき証拠があったではないかというときに初めて、新規に証拠調べをするのです。
このように民事事件では、第一審と第二審を通じて主張・立証していくのです。民事事件では、第一審と第二審は続審であるということを押さえておいてください。
以上を前提として、問題8肢3で解説したとおり、民事事件においては、訴額にもよりますが、140万円を超える事件では、地方裁判所が第一審、高等裁判所が第二審(控訴審)、最高裁判所が第三審(上告審)となります。
また、訴額が140万円以下の事件では、簡易裁判所が第一審、地方裁判所が第二審(控訴審)、高等裁判所が第三審(上告審)となります。
続審であるため、地方裁判所においても事実と証拠から事実認定がなされるのです。
ですから、訴額によって、高等裁判所が第二審(控訴審)になる場合と第三審(上告審)になる場合とがあるのです。
よって、民事事件については正しいです。
これに対して、刑事事件においても簡易裁判所が第一審になる場合があります。
簡易裁判所は、罰金以下の刑に当たる罪及び窃盗や横領など比較的軽微な罪の刑事事件について、第一審の裁判権を持っています。
簡易裁判所は、通常、禁錮以上の刑を科することはできません。
そして、刑事事件においては、第一審と第二審は続審ではなく、事後審です。
事後審とは、事件そのものでなく、原判決の当否を審査する審理方法をいいます。
例えば、控訴できるのは、第一審の審理の方法(訴訟手続)が法律に定められた方法に反しているとか、第一審の判決が事実の認定や法律の解釈適用を間違えているとか、刑が重過ぎるとか軽過ぎるという場合などです。そして、控訴審では、第一審と同じやり方で審理を始めからやり直すのではなく、第一審の審理の記録を点検して、その審理のやり方や事実認定、法令解釈に誤りがないか、刑は適当かどうかということを調べることになります。ですから、控訴審では、公判を開いても、検察官や弁護人が判決に誤りがあるかどうかについて意見を述べるだけで、第一審のように法廷で証人やその他の証拠の取調べをしないのが原則です。
このように証拠調べなどをせずに法律違反などを争うので、第一審が簡易裁判所である場合、第二審は地方裁判所ではなく、法令違反等の有無を担当する上級裁判所である高等裁判所が第二審となるのです。
主に事実認定をするのが簡易裁判所および地方裁判所であり、法令違反等の有無を審理するのが高等裁判所という役割になっているのです。
以上より、民事事件では、第一審と第二審は続審であるため、下級裁判所の順序にしたがって審理されるのに対して、刑事事件では、第一審と第二審は事後審であるため、第二審は高等裁判所となるということを押さえておきましょう。
3 正
裁判所法11条は最高裁について「裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければならない」と規定しています。
アメリカ・イギリスでは個々の裁判官が裁判の理由を述べるのが原則で、戦後アメリカの影響を強く受けた日本の裁判所制度も、この個別意見の表明を取り入れたのです。そして一般には、最高裁判所裁判官の国民審査のための資料となることが個別意見表明の主たる目的といわれています。
このように、最高裁判所裁判官の国民審査のための資料となるために意見を付すので、国民審査のない下級裁判所裁判官の意見は付す必要はなく、むしろ、下級裁判所については、合議体の裁判における各裁判官の意見等について、秘密を保持することが要求されています(裁判所法第75条2項後段)。
なお、「意見」には、「法廷意見(または多数意見)」、「少数意見」に分かれ、「少数意見」はさらに「補足意見」「意見」「反対意見」の3種類ほどに分けられます。「補足意見」は「法廷意見」に賛成する立場から、さらに付随的な事項や念のための説明などをつけ加えるもので、「法廷意見」を補強しようというものです。「意見」は、一般的には「法廷意見」の結論に賛成するけれども、理由付けにおいて意見を異にする場合です。そして「反対意見」は「法廷意見」の結論にも反対するものです。
4 誤
再審とは、確定した判決について、一定の要件を満たす重大な理由がある場合に、再審理を行なうことです。
再審は、民事訴訟および刑事訴訟においてもすることができます。
参考までに条文を載せておきます。
民事訴訟の場合には判決に不服がある側が再審の訴えができます。
民事訴訟法 第338条
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
四 判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。
五 刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。
六 判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。
七 証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。
八 判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
九 判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。
十 不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。
2 前項第四号から第七号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。
3 控訴審において事件につき本案判決をしたときは、第一審の判決に対し再審の訴えを提起することができない。
刑事訴訟の場合には有罪判決を受けた者の利益のためになされます。
刑事訴訟法 第435条
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
一 原判決の証拠となつた証拠書類又は証拠物が確定判決により偽造又は変造であつたことが証明されたとき。
二 原判決の証拠となつた証言、鑑定、通訳又は翻訳が確定判決により虚偽であつたことが証明されたとき。
三 有罪の言渡を受けた者を誣告した罪が確定判決により証明されたとき。但し、誣告により有罪の言渡を受けたときに限る。
四 原判決の証拠となつた裁判が確定裁判により変更されたとき。
五 特許権、実用新案権、意匠権又は商標権を害した罪により有罪の言渡をした事件について、その権利の無効の審決が確定したとき、又は無効の判決があつたとき。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
七 原判決に関与した裁判官、原判決の証拠となつた証拠書類の作成に関与した裁判官又は原判決の証拠となつた書面を作成し若しくは供述をした検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が被告事件について職務に関する罪を犯したことが確定判決により証明されたとき。但し、原判決をする前に裁判官、検察官、検察事務官又は司法警察職員に対して公訴の提起があつた場合には、原判決をした裁判所がその事実を知らなかつたときに限る。
5 誤
家庭裁判所においては、夫婦関係や親子関係の紛争などの家事事件について調停や審判、非行を犯した少年の事件について審判を行います。また、平成16年4月1日からは、人事訴訟法の施行に伴い、夫婦、親子等の関係をめぐる訴訟(例:離婚訴訟)もなされます。