憲法 人権 (H23-3)
プライバシーに関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
1 何人も、その承諾なしにみだりに容貌等を撮影されない自由を有するので、犯罪捜査のための警察官による写真撮影は、犯人以外の第三者の容貌が含まれない限度で許される。
2 前科は、個人の名誉や信用に直接関わる事項であるから、事件それ自体を公表することに歴史的または社会的な意義が認められるような場合であっても、事件当事者の実名を明らかにすることは許されない。
3 指紋は、性質上万人不同、終生不変とはいえ、指先の紋様にすぎず、それ自体では個人の私生活や人格、思想等個人の内心に関する情報ではないから、プライバシーとして保護されるものではない。
4 犯罪を犯した少年に関する犯人情報、履歴情報はプライバシーとして保護されるべき情報であるから、当該少年を特定することが可能な記事を掲載した場合には、特段の事情がない限り、不法行為が成立する。
5 いわゆる住基ネットによって管理、利用等される氏名・生年月日・性別・住所からなる本人確認情報は、社会生活上は一定の範囲の他者には当然開示されることが想定され、個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。
解答 5
本問は、まず、肢4と5以外の肢の正誤の判断はできなければなりません。後は、知っている判例を応用したり、常識で判断すれば正解が出るでしょう。
(肢1) 誤
写真撮影を強制されない自由の判例(京都府学連事件)です。過去問(H13-5-3)も参照してください。
確かに、何人も、その承諾なしにみだりに容貌等を撮影されない自由を有するのですが、公共の福祉による制約を受けます。
ですから、犯罪捜査のための警察官による写真撮影は、犯人以外の第三者の容貌が含まれたとしても許される場合があります。
もし犯人以外の第三者の容貌が含まれることが一切禁止されるのであれば、公道などで犯罪の証拠を保全することが極めて困難となります。判例の知識がなくても常識的に考えても正解できる問題でしょう。
以下判例を載せておきます。
「犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法二条一項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。」
(肢2) 誤
ノンフィクション「逆転」事件からの出題です。問題9肢5(H13-5-2)からも容易に正誤を判断できるでしょう。
判決内容の簡潔なまとめからすると、①事件それ自体を公表することに歴史的又は社会的な意義が認められるような場合②その者の社会的活動の影響力が大きく、その社会的活動に対する批判あるいは評価の一資料とする場合③公的立場の者が公職にあることの適否などの判断の一資料とする場合には前科に関わる事実を公表しても違法とならない場合があるということです。
(肢3) 誤
指紋というのは、全く同じ指紋を持っている人が極めて少ないため、これを指紋のもつ万人不同性といいます。
そのため、指紋の利用方法によっては、個人の情報に直結します。つまり、指紋というのは、個人情報の一つであり、プライバシーにあたるのです。これを、指紋のもつ情報索引性ともいいます。ですから、指紋押捺を強制されない自由=個人のプライバシー権は、新しい人権の一つとして憲法13条で保障されるのです。
なお、憲法第2回問題3肢1(H19‐6-1)で類似問題がありますので確認しておいて下さい。
(肢4) 誤
本問は、知識がある人がかえって迷った問題でしょう。これも判例(最判平成15年3月14日)ですが、判例の知識がなくても、月刊ペン事件や肢2のノンフィクション「逆転」事件から推知して正誤を判断できるでしょう。つまり、少年といえども犯罪者であるので単なる一般私人ではありません。その少年を特定する情報というのは、少年にとっては、プライバシー権です。
一方で、出版社が犯罪事件についての記事を掲載することは表現の自由の一つです。ですから、私人におけるプライバシー権と表現の自由がまさに衝突する場面ですから、安易にどちらが優先するというものではありません。
そのため、月刊ペン事件やノンフィクション「逆転」事件では、一定の要件を満たせば、名誉権やプライバシー侵害とはならないとしているのです。そういう意味で、個別の事情によって、個人の名誉権やプライバシー権が優先される場合もあるし、また逆に表現行為が優先される場合もあるのです。
ですから、本問にあるように、「特段の事情がない限り、不法行為が成立する。」のであれば、個人の名誉権やプライバシー権の方が表現の自由よりも優先されることになるので、誤りということになります。
(肢5) 正
本問は、常識的に判断できるでしょう。少なくとも年賀状や宅配便などでは、氏名・住所は当然開示されることが想定された公開情報ですし、性別も名前から推知することができます。生年月日も同姓同名である人を特定するための本人確認情報なので、これらの4つの情報については、個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえないのです。