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民法 債権 (H23-33)


Aの隣人であるBは、Aの不在の間に台風によってA所有の甲建物(以下、「甲」という。)の屋根が損傷したため修繕を行った。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。


1 Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、Aのために修繕を行ったが、強風に煽られて屋根から落下してしまい、受傷した。この場合に、Bは、Aに対して損害賠償を請求することができない。

2 Bは、Aから不在中における甲の管理を頼まれていたために修繕を行ったが、屋根から下りる際にBの不注意により足を滑らせて転倒し受傷した。この場合に、Bは、Aに対して損害賠償を請求することができる。

3 Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、Aのために修繕を行ったが、それがAにとって有益であるときは、Bは、Aに対して報酬を請求することができる。

4 Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、工務店を営むCに修繕を請け負わせた。このようなBの行為は、Aのための事務管理にあたるから、これによりCは、Aに対して工事代金の支払いを直接に請求することができる。

5 Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、工務店を営むCに修繕を請け負わせたが、実はAがCによる修繕を望んでいないことが後になって判明した。このような場合、甲にとって必要不可欠な修繕であっても、Bは、Aに対してその費用の支払いを請求することができない。




解答 1


肢2以外は「Bは、Aからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかった」とあるので、全て事務管理の話になります。これらの肢の文頭から事務管理に気づくことがまず大事です。事務管理とは、法律上の義務がない者が、他人のために他人の事務(法律行為や事実行為)の管理を行うことをいいます。

事務管理の趣旨は、簡単に言うと、社会生活における相互扶助です。困っている人がいれば助けてあげましょうということです。親切行為の推進といってもよいでしょう。ただし、親切行為もやりすぎるとお節介になってしまいます。そのバランスを保つことが事務管理で規定されているのです。個別に肢をみていきましょう。


肢1 正

事務管理をしたBに損害が生じた場合、Aに対して損害賠償を請求することができるかどうかが、この肢のポイントです。

 損害賠償については条文で規定されていませんし、委任の規定も準用されていません(701条参照)。なぜでしょうか。

 確かに、親切行為はありがたいことですが、その親切の押し売りをして怪我したから金払えというのは、行きすぎです。もしこのような規定があれば、必ずそれを悪用する人たちが増えてきます。頼んでもいないのに問題文のようなことをしてわざと怪我して金を請求するということもあるでしょう。

 それでは事務管理を規定した意味がなくなってしまいます。そのため、事務管理によって損害を生じた場合でも、損害賠償請求することはできないのです。よって、正しいです。


肢2 誤

「Bは、Aから不在中における甲の管理を頼まれていた」ことから、AB間は委任契約であることに気づくことが重要です。

より正確に言うと、甲の行為は法律行為ではなく事実行為なので準委任契約(656条)となります。準委任契約も委任契約を準用しているので同じだと思ってください。

委任契約は、委任者と受任者との信頼関係に基づいて受任者に事務処理を任せるもので、受任者に過失のない事務処理上の損害は、委任者が賠償責任を負います(650条3項)。

この賠償責任は委任者の無過失責任といわれています。

逆に言うと、受任者に過失のある事務処理上の損害については、委任者は損害を負いません。受任者に過失がある以上、受任者の自己責任ということになります。よって、誤りです。


肢3 誤

 これも肢1の損害賠償と同じ考え方です。もし報酬請求権があれば、その報酬欲しさに親切の押し売りやお節介をする人が増えてきます。ですから、報酬請求権はないのです。よって、誤りです。

なお、管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができます(702条1項)。事務管理によって利益を受けたのは本人ですから、その有益な費用については本人が支払うべきものであるからです。この有益な費用には、有益費のみならず必要費も含まれます。


肢4 誤

 修繕の請負契約自体は、BC間の契約です。ですから、あくまでも契約当事者はBCであるため、CはBに対して代金請求をすることができるに過ぎません。なお、この修繕費が有益費にあたれば、肢3で解説したとおり、BはAに対してその償還を請求することができます。よって、誤りです。


肢5 誤

肢3で解説したとおり、管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができます(702条1項)。ただし、管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度(現存利益)においてのみ、費用等の請求をすることができます(702条3項)。このように現存利益については費用償還請求できます。よって、誤りです。




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