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憲法 統治 (H23-4)


Aは、日本国籍を有しない外国人であるが、出生以来日本に居住しており、永住資格を取得している。Aは、その居住する地域に密着して暮らす住民であれば、外国人であっても地方自治体の参政権を与えるべきであり、国が立法による参政権付与を怠ってきたのは違憲ではないか、と考えている。Aは、訴訟を起こして裁判所にあらためて憲法判断を求めることができないか、かつて行政書士試験を受けたことのある友人Bに相談したところ、Bは昔の受験勉強の記憶を頼りに、次の1~5の見解を述べた。このうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当でないものはどれか。


1 国民の選挙権の制限は、そのような制限なしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが著しく困難であると認められる場合でない限り、憲法上許されず、これは立法の不作為による場合であっても同様であると解されている。

2 国が立法を怠ってきたことの違憲性を裁判所に認定してもらうために、国家賠償法による国への損害賠償請求が行われることがあるが、最高裁はこれまで立法不作為を理由とした国家賠償請求は認容されないという立場をとっている。

3 憲法の基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象とすると解されるものを除き、外国人にも等しく及ぶものと考えられており、政治活動の自由についても、外国人の地位にかんがみて相当でないものを除き外国人にも保障される。

4 憲法93条2項で地方公共団体の長や議会議員などを選挙することとされた「住民」とは、その地方公共団体に住所を有する日本国民のみを指している。

5 仮に立法によって外国人に対して地方参政権を認めることができるとしても、その実現は基本的に立法裁量の問題である。



解答 2 


(肢1) 正

判例(最大判平成17年9月14日)からの出題です。

以前(平成8年)の公職選挙法では、いわゆる在外国民(国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民)について、衆議院選挙について選挙権を行使することができなかったため、在外国民である原告らが、この立法不作為は憲法に違反するとして、投票する地位の確認や国家賠償請求等を求めた事案です。

数少ない法令違憲判決の一つですので、この点も合わせて押さえておきましょう。

ただ、この判例を直接知らなくても、肢2と同様に立法の不作為について訴訟することが出来るのは当然です。

立法には、積極的意味と消極的意味とがあります。

つまり、立法をするという「作為」と立法をしなければならないのに、その義務を怠り立法しない「不作為」の両方の意味があるのです。

このように立法には、作為と不作為の両側面があることを知っておいて下さい。

なお、本件判決後、2007年6月以後の国政選挙において、在外国民に対して衆議院の小選挙区及び参議院の選挙区について在外投票を認める公職選挙法改正(公職選挙法42条、30条の2以下参照)がなされました。


(肢2) 誤

肢1の通り、立法行為には、立法の不作為も含まれます。

国会による立法義務があるにも関わらず、それを放置して立法義務を怠っていた場合は、その立法不作為も違憲審査の対象となるのです。

過去問(H17-13-エ、H21-20-3)でも行政法の分野ですが類似問題が出題されていますので確認しておいて下さい。

なお、司法権の独立で守られているはずの裁判過程ですらも国家賠償の対象となる場合もあります。


(肢3) 正

判例(マクリーン事件)では、『権利の性質上、日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶべきである』としています。


(肢4) 正 (肢5) 正

 肢4と肢5は、同じ判例(最判平成7年2月28日)の中からの出題です。

「憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。」としています。

つまり、参政権は、国民主権に直結するものですから、日本国籍を有しない外国人には保障されていないとされています。ですから、「住民」=日本国民です。

これは、国政であろうと地政であろうと同じです。ただ、地方における選挙権ならば、国民主権との関係は間接的であるため立法政策上許容できるとされています。

地方による政治というのは、憲法上わざわざ地方自治の章までもうけて保障しているもので、住民の意思に基づく政治ですから、住民である定住外国人に地方の選挙権を法律で与えても許容できるということです。

結論として、国民主権に直結する参政権の性質上、外国人には憲法上の人権として保障されないが、法律で地方の選挙権を与えても許容されるということです。つまり、外国人側から日本国に対して地方参政権を要求することはできないものの、日本国側が法律によって外国人に対する地方参政権を定めることはできるということです。

したがって、外国人に対する地方参政権の実現は、基本的に立法裁量の問題なのです。





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