商法・会社法 (H23-40)
会社法上の公開会社の剰余金の配当に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
1 剰余金の配当は、確定した計算書類およびこれに準ずる計算書類を基礎に、同一事業年度内に何度でも行うことができる。
2 剰余金の配当について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款に定めることは、株主平等原則に反して許されない。
3 委員会設置会社は、株主総会の承認に代えて、取締役会で剰余金の配当を決定することができる旨の定款の定めを置くことができる。
4 配当される財産は金銭に限定されないが、現物でのみ配当する場合には、株主総会の特別決議が必要である。
5 剰余金配当請求権は、株主が会社から直接経済的利益を受ける重要な権利であるため、剰余金配当請求権を付与しない旨の定款の定めを置くことは許されない。
解答 5
1 正
通常の剰余金の配当には、回数制限はありません(453条)。
なお、債権者保護の要請から株式会社の純資産の額が300万円を下回る場合には、剰余金の配当が禁止されています(458条)。
2 正
株式会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会における議決権について株主ごとに異なる取り扱いを行う旨を定款で定めることができないのが原則です。本問の会社は、公開会社であることが前提なので、この株主平等の原則が適用されます。
なお、非公開会社、つまり発行する株式の全部について譲渡制限株式である株式会社においては、公開会社に比べて、株主の入れ替わりが少なく、株主相互間の関係が緊密です。
要するに知り合い同士が出資して経営しているような小さい会社をイメージしてみてください。そのような会社では、株主の個性に合わせて定款自治を広く認めても問題となりません。そのため、剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会における議決権について株主ごとに異なる取り扱いを行う旨を定款で定めることができるのです。
3 正
いわゆる中間配当について、取締役会設置会社は、一事業年度の途中において一回に限り取締役会の決議によってすることができる旨を定款で定めることができます(454条5項)。
委員会設置会社は、取締役会設置会社なので、株主総会の承認に代えて、取締役会で剰余金の配当を決定することができる旨の定款の定めを置くことができるのです。
4 正
剰余金の配当財産は金銭の他現物配当も認められます。
例えば、子会社の株式などです。
しかし、当該株式会社の株式等(株式、新株予約権または社債)にすることはできません(454条1項1号)。
株式、新株予約権については無償割り当ての制度が別にあるからです(185条・277条)。
このように現物配当の場合、換金方法の難易が株主により異なる場合があるので、株主に対して金銭分配請求権を与えないこととする場合は株主総会の特別決議が必要となります(309条2項10号)。
5 誤
剰余金配当請求権とは、株式会社の収益から株主に分配される利益を請求できる権利です。いわゆる配当金を得られるということです。
残余財産分配請求権とは、会社が解散して債務を弁済した後に残る財産に関して分配を請求することができる権利をいいます。
会社の財産は、実質的所有者である株主の財産なので、余った財産については株主に分配するのが当然なのです。
剰余金配当請求権(105条1項1号)や残余財産分配請求権(105条1項2号)については、株主にとっての根本的な権利です。
そのため、それらの自益権の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しないのです(105条2項)。
あくまでも剰余金配当請求権および残余財産分配請求権の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しないのであって、どちらか一つについて付与しない旨の定款の定めを置くことは許されるのです。
自益権の全てを失うわけではないからです。