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憲法 統治 (H23-7) 


次の文章は、衆議院議員選挙の効力を争った、ある高等裁判所判決の一節である。当時の公職選挙法別表に定められた選挙区への定数配分については、先の総選挙に関し、最高裁判所が、客観的には違憲状態であるが、なお選挙時には改正に必要な合理的期間を徒過していなかったことを理由に、合憲判断を下していた。高裁判決では、こうした状態の下で解散総選挙が行われた事案に関して、憲法判断が求められている。そこで扱われた問題を論じた文章として、妥当なものはどれか。

  被告は、本件選挙は内閣の衆議院解散権の行使によるものであるところ、このような選挙については、投票価値の較差を是正したうえでこれを行うかどうかは立法政策の問題である旨主張する。

  本件選挙が内閣の衆議院解散権の行使に基づくものであることは公知の事実であるが、前記の較差是正を行うべき合理的期間は、選挙権の平等を害するような較差を生ぜしめる議員定数配分規定がその間において改正されることを合理的に期待しうるに足る期間なのであるから、右期間が経過した以上、右規定は憲法に違反するものといわざるをえないのであり、右期間経過後に行われる選挙の効力については、それが内閣の解散権の行使によるものであつても、法律上他の事由に基づく選挙と異なつた取扱いをすべき理由はない。その結果として内閣の解散権が事実上制約されることが起こりうるとしても、それは事柄の性質上やむをえないことであり、以上とは逆に、内閣の解散権を確保するために違憲の選挙法規の効力をあえて承認するような法解釈をとることは、本末を転倒するものとのそしりを免れないであろう。

(東京高判昭和59年10月19日行集35巻10号1693頁以下)


1 この判決は、内閣の解散権行使の前提として、衆議院での内閣不信任決議案の可決が必要的だ、という立場にたっている。

2 内閣の解散権行使の結果行われた総選挙について、その無効を争う選挙訴訟は三審制であって、本件は控訴審判決である。

3 この判決は、政治上の必要があれば、本件のような事案で内閣が解散権を行使しても総選挙は適法だ、という立場にたっている。

4 本件訴訟は、公職選挙法の定める選挙訴訟として行われているので、いわゆる機関訴訟の1形態と位置づけられるものである。

5 この判決は、現時点ではすでに改正に必要な合理的期間を徒過しており、判例によれば当該議員定数配分規定は違憲だ、という立場にたっている。



解答 5


本問の判例自体は、法の下の平等で勉強した議員定数不均衡の問題ですが、本問を正解するためには、「扱われた問題を論じた文章として、妥当なもの」を見つければよく、判例の知識は必要ないため判例の内容と選択肢から解答は一つしかないことがわかります。そういう意味では憲法の問題というよりも文章理解(国語)問題です。


(肢1)  妥当でない

 この判決のどの部分を読んでも、「内閣の解散権行使の前提として、衆議院での内閣不信任決議案の可決が必要的」であるとは記述されていません。

また、テキストP231の衆議院の解散の根拠のところにもあるとおり、衆議院の解散には民意を問うという機能もあります。

ですから、衆議院の解散=民意を問うということであり、民意を問うのに必要な状況であるならば、69条に限らず、原則的に自由に衆議院の解散をすることができるのです。

そのため、衆議院の解散の根拠の点からも「内閣の解散権行使の前提として、衆議院での内閣不信任決議案の可決が必要的」であるというのは、妥当でないのです。


(肢2) 妥当でない

 選挙または当選の効力に関する訴訟は、第一審が東京高等裁判所となっています。ですから、三審制ではなく、二審制なのです。

もし、それらの訴訟が無効となれば、その選挙によって構成された国会における法律案等も無効になるおそれがあるなど国政に多大な影響を与えるため、これらの訴訟については、最初から合議体による裁判所で慎重な判断がなされる必要があるからです。

ただ、こうした知識は細かいので知っていても知らなくても正解には影響しません。「扱われた問題を論じた文章として、妥当なもの」ということですから、あくまでもこの判決内容に関わるものでなければならないはずですから、三審制かどうかはこの判決文には登場してきません。よって、この肢は問われていることからは無関係の話であって、単に選挙訴訟は二審制かどうかを問う問題として出題されているだけです。こういう変に細かい知識に引っかからないようにしましょう。


(肢4) 妥当でない

行政事件訴訟法でも勉強しますが、選挙訴訟は、客観訴訟のうちの民衆訴訟にあたります。

民衆訴訟とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいいます(行政事件訴訟法5条)。

以上の肢1、2、4は問題文とは何ら関係のない引っ掛け問題に過ぎません。この問題の正解にとっては、ある意味どうでもいい知識です。

次の肢3と5が本問の内容に関する問題ですので、この2肢にすぐ絞れたかどうかを確認しておいて下さい。文末の「立場」という語句からも気づいて欲しいです。

単に詰め込んだ知識を出せばいいという問題ではなく、試験の現場で何が問われているか、その出題意図を見抜くということが重要であることがわかる問題の一つです。


(肢3) 妥当でない (肢5) 妥当である

判決文は色々長々と書かれていますが、「右(合理的)期間が経過した以上、右規定は憲法に違反するものといわざるをえない」という部分を見つけられれば簡単に正解できるでしょう。

この部分から、選挙が無効で違憲であるということがわかります。

 ですから、この判決は、「総選挙は適法だ」という立場にたっているのではなく、「当該議員定数配分規定は違憲だ」という立場にたっているのです。

 上記の部分を見つけて、肢3と5のどちらの立場の方が近いかを検討すれば正解となることから、文章理解の問題といってもよいでしょう。




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