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民法 債権(H24-33)


Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し(以下、この賃貸借を「本件賃貸借」という。)、その際、BがAに対して敷金(以下、「本件敷金」という。)を交付した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。


1 本件賃貸借において、Bが甲建物のために必要費および有益費を支出した場合、特 約がない限り、Bはこれらの費用につき、直ちにAに対して償還請求することができ る。

2 BがAの承諾を得て本件賃貸借に基づく賃借権をCに譲渡した場合、特段の事情が ない限り、AはBに対して本件敷金を返還しなければならない。

3 BがAの承諾を得て甲建物をDに転貸したが、その後、A・B間の合意により本件 賃貸借が解除された場合、B・D間の転貸借が期間満了前であっても、AはDに対し て甲建物の明渡しを求めることができる。

4 BがAの承諾を得て甲建物をEに転貸したが、その後、Bの賃料不払いにより本件 賃貸借が解除された場合、B・E間の転貸借が期間満了前であれば、AはEに対して 甲建物の明渡しを求めることはできない。

5 AがFに甲建物を特段の留保なく売却した場合、甲建物の所有権の移転とともに賃 貸人の地位もFに移転するが、現実にFがAから本件敷金の引渡しを受けていないと きは、B・F間の賃貸借の終了時にFはBに対して本件敷金の返還義務を負わない。



解答 3



肢1 誤

第608条からの出題です。


第608条

1 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。

2 賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第2項の規定に従い、その償還をしなければならない。

ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。


本問のポイントは、「必要費および有益費を支出した場合、…直ちにAに対して償還求することができる。」という部分です。

賃借人は占有者ですから、占有している、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、賃貸借契約の終了をまたずに直ちにその償還を請求することができるのです。

 例えば、アパートのトイレが故障したので賃借人が修理業者に依頼して修理した費用などが必要費にあたります。

これに対して、有益費については、賃貸借の終了の時に償還請求できるとされています。

例えば、まだ使用できる風呂場の蛇口を錆びにくいステンレス製のものに交換したり、お風呂に追い炊き機能をつけたりするような場合の費用です。

直ちに有益費を賃貸人に請求できるとすると、実際上賃貸人の負担で、色々なものを良いものに交換できることになるので賃貸人に酷となります。

賃貸借の終了の時にその増加額か費用のいずれかを賃貸人が選択できるようにしたのです。

もっとも、有益費については、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができるとされています。

 賃借人は、最初から他人の物を占有していることに悪意なので196条のように「悪意」という限定がないのです。


肢2 正

敷金契約は、賃貸借契約とは別個に賃貸人賃借人の間で結ばれる契約です。そうすると、賃借権の譲渡がなされて、賃借人がBからCに変更された場合、AB間の敷金契約は賃貸借契約とは別個の契約ですから、敷金契約に関する権利義務には変動は生じないはずです。

この場合、賃借人BはAに対して敷金の返還を請求し、Aは、再度Cとの間で敷金契約を結ぶことになります。BがAに支払った敷金を、AB間の賃貸借の終了によってAがBに敷金を返還するのは当然であって、この敷金を新しい借主であるCが利用できるのはおかしいですから、 常識的にもわかるでしょう。賃貸人たる地位の移転と誤解しないように注意しましょう。


肢3 誤 肢4 誤

解説の便宜上、肢4の方から解説していきます。

ポイントは、「Bの賃料不払いにより本件賃貸借が解除された場合」という部分です。

Bの賃料不払い、つまり債務不履行により、Aは、AB間の賃貸借契約を解除することができます。そして、BE間の転貸借契約は、このAB間の賃貸借契約の存在を前提としているので、AB間の賃貸借契約が解除されれば、その前提を失うため、BE間の転貸借契約も終了します。

したがって、B・E間の転貸借が期間満了前であっても、AはEに対して甲建物の明渡しを求めることができるのです。

これに対して、肢3のポイントは、「A・B間の合意により本件賃貸借が解除された場合」という部分です。

合意解除であっても、AB間の賃貸借契約が解除される点は、債務不履行による解除と共通します。しかし、AB間の勝手な合意によって、BE間の転貸借契約をわざと終了させてしまうことになるのは、転借人Bの利益を不当に害します。そこで、判例(最判昭和38年2月21日)によると、転貸借契約が有効に成立した場合に、賃貸人と賃借人の賃貸借契約を合意解除しても、転借人には対抗できないと解されているのです。

 Aが転借人Dに合意解除を対抗できない以上、B・D間の転貸借は有効に継続し、B・D間の転貸借が期間満了前であれば、AはDに対して甲建物の明渡しを求めることができないのです。債務不履行による解除と合意解除との違いを押さえておいてください。


肢5 誤

 ポイントは、「甲建物の所有権の移転とともに賃貸人の地位もFに移転」という部分です。敷金契約は、賃貸借契約とは別個に賃貸人賃借人の間で結ばれる契約です。そうすると、賃貸人たる地位が移転したとしても、敷金契約は賃貸借契約とは別個の契約ですから、敷金契約に関する権利義務には変動は生じないはずです。

 この場合、賃借人BはAに対して敷金の返還を請求し、再度Fとの間で敷金契約を結ぶことになります。

 しかし、これは手続的に不便であり、また、もしAが敷金を返還せずに失踪でもしたら、敷金は返ってこないことになります。しかも、賃貸物の譲渡は賃借人の承諾なくできますから、いつ賃貸物が譲渡されているか賃借人には知りえないのです。

 そのため、判例は、賃貸借契約期間中に所有権移転に伴い賃貸人たる地位の承継があったとき、敷金に関する権利義務は当然に新所有者Fに承継されるとしました。

賃貸人の地位に伴って敷金も新賃貸人Fに移転するのです。

したがって、現実にFがAから本件敷金の引渡しを受けていない場合でも、Fに敷金も移転しているので、B・F間の賃貸借の終了時にFはBに対して本件敷金の返還義務を負うのです。




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