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民法 物権 (H25-28)



不動産の取得時効と登記に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。


1 不動産の取得時効の完成後、占有者が登記をしないうちに、その不動産につき第三者のために抵当権設定登記がなされた場合であっても、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したときは、特段の事情がない限り、占有者はその不動産を時効により取得し、その結果、抵当権は消滅する。

2 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成する前に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができない。

3 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができず、このことは、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したとしても、特段の事情がない限り、異ならない。

4 不動産の取得時効の完成後、占有者が、その時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者に対して時効を主張するにあたり、起算点を自由に選択して取得時効を援用することは妨げられない。

5 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後にその不動産を譲り受けて登記をした者に対して、その譲受人が背信的悪意者であるときには、登記がなくても時効取得をもって対抗することができるが、その譲受人が背信的悪意者であると認められるためには、同人が当該不動産を譲り受けた時点において、少なくとも、その占有者が取得時効の成立に必要な要件を充足していることについて認識していたことを要する。



解答 1


1 正  3 誤

 時効完成後の第三者についての問題です。占有者と時効完成後の譲受人である第三者は、元の所有権者からすると結果的には、二重譲渡類似の関係になるのです。第三者と元の所有権者との有効な契約によって、不動産の抵当権を設定し、また取得しているので登記の不存在を主張するのに正当な利益を有する第三者になるのです。ですから、占有者と時効完成後の第三者は対抗関係と類似の関係となり、どちらも登記なくして対抗できないのです。

 したがって、占有者が時効完成後の第三者に対抗するためには登記が必要となるのです。以上より、時効完成後に不動産に抵当権を設定したり、売却したりした場合、占有者は登記なくして第三者に対抗できないのが原則です。

 もっとも、そのまま登記をせずに放置して平穏・公然・善意・無過失でさらなる時効期間が経過した場合、新たな取得時効が完成していますね。

 時効取得というものは、事実状態を尊重し、権利の上に眠る者を保護しないという制度ですから、一度確定的に所有権者が決まっても、時効は進行するので、それを覆すことができるのです。時効特有の制度なのです。ですから、登記なくして占有者は時効完成後の第三者に対抗できるのです。

 したがって、肢1においては、占有者はその不動産を時効により取得し、その結果、抵当権は消滅するので正しいです。

 また、肢3においては、占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続した場合、登記なくして占有者は時効完成後の第三者に対抗できるので誤りです。


2 誤

 時効完成前の第三者についての事例です。時効が成立すれば、不動産を時効により取得した占有者は占有開始当初から原始的に所有権を取得するわけですから、時効完成時における元の所有者、つまり取得時効が完成する前に当該不動産を譲り受けた者は、当事者にあたります。時効取得というものは、事実状態を尊重し、権利の上に眠る者を保護しないという制度ですから、当事者に対しては、登記の有無に関わらず、不動産を時効により取得した占有者は時効を主張しうるのです。

 そうすると、時効完成前の第三者=当事者なので、登記なくして時効を主張できるのです。ですから、時効が完成するまでに、承継取得した第三者も当事者として扱ってかまわないわけです。

 したがって、時効が完成するまでに、不動産が売却されても当事者と同様の立場ですから登記なくして不動産の所有権を主張できるのです。


4 誤

 時効の起算点は自由に選択することはできないとするのが判例です。ただ、本肢のような考え方も学説上はあるということは知っておいてください。


5 誤

 不動産の二重譲渡のような対抗関係が生じる場合、公平の観点から、譲受人の善悪にかかわらず、自由競争の範囲内で先に登記を備えた方が勝つ、つまり登記の有無で画一的に処理されるのです。背信的悪意者とは単なる事情を知っているだけでなく、第一譲受人を困らせる目的で譲渡を受けている者です。ある意味、短距離走でヨーイドン!で走ったら、少し前を走っている隣の走者に後ろから足をかけて転倒させるみたいな者と同じですから、これでは自由競争の範囲を超えていますね。

 このような者を保護する必要はありませんから、背信的悪意者に対しては登記なくして対抗できるのです。

 ですから、本肢前段部分は正しいです。

 もっとも、判例(最判平成18年1月17日)においては、取得時効の成否については、その要件の充足の有無が容易に認識・判断することができないものであるため、取得時効の成立要件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても、背信的悪意者と認められる場合があるというべきであり、その場合であっても、少なくとも、多年にわたる占有継続の事実を認識している必要があると解すべきであると判示しています。



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