民法 債権 (H25-31)
契約の解除に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア Aが、その所有する建物をBに売却する契約を締結したが、その後、引渡しまでの間にAの火の不始末により当該建物が焼失した。Bは、引渡し期日が到来した後でなければ、当該売買契約を解除することができない。
イ Aが、その所有する建物をBに売却する契約を締結したが、その後、引渡し期日が到来してもAはBに建物を引き渡していない。Bが、期間を定めずに催告した場合、Bは改めて相当の期間を定めて催告をしなければ、当該売買契約を解除することはできない。
ウ AとBが、その共有する建物をCに売却する契約を締結したが、その後、AとBは、引渡し期日が到来してもCに建物を引き渡していない。Cが、当該売買契約を解除するためには、Aに対してのみ解除の意思表示をするのでは足りない。
エ Aが、その所有する土地をBに売却する契約を締結し、その後、Bが、この土地をCに転売した。Bが、代金を支払わないため、Aが、A・B間の売買契約を解除した場合、C名義への移転登記が完了しているか否かに関わらず、Cは、この土地の所有権を主張することができる。
オ Aが、B所有の自動車をCに売却する契約を締結し、Cが、使用していたが、その後、Bが、所有権に基づいてこの自動車をCから回収したため、Cは、A・C間の売買契約を解除した。この場合、Cは、Aに対しこの自動車の使用利益(相当額)を返還する義務を負う。
1 ア・エ
2 イ・ウ
3 イ・オ
4 ウ・エ
5 ウ・オ
解答 5
肢ア 誤
履行不能による解除の問題です。
本問では、AB間の売買契約締結後に、契約の目的物である建物を引渡すまでの間にAの火の不始末により焼失させてしまっています。
ですから、AのBに対する引渡し債務は社会通念上履行不能となっています。
履行不能となれば、もはや履行できない状態なので催告をしても無意味です。
ですから、本問のように売買契約後、弁済期前つまり引渡し前に履行不能になったような場合は、弁済期である引渡し期日を待たずに履行できないことが確定します。
したがって、この場合、履行不能となった瞬間に無催告で契約を解除することができるのです。
よって、Bは、引渡し期日が到来しなくても、当該売買契約を解除することができるので誤りとなります。
肢イ 誤
履行遅滞による解除の問題です。
履行遅滞によって、損害賠償請求のみならず解除することもできます。
解除をするためには、相当の期間を定めた催告が必要で、その期間内に履行されない場合に解除ができます。
例えば、弁済期が経過しているのに支払われない場合に、債権者が1週間以内に支払うように債務者に催告し、それでも履行しない場合に解除することができるのです。
また、期間を定めずに催告した場合であっても、催告から相当な期間が経過した場合は、解除することができるのです。
したがって、本問において、Bが、期間を定めずに催告した場合、Bは改めて相当の期間を定めて催告をしなくても、催告から相当な期間が経過すれば当該売買契約を解除することができるので、誤りとなります。
肢ウ 正
第544条1項からの出題です。
「当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。」
これを解除の不可分性といいます。
したがって、Cが、当該売買契約を解除するためには、AのみならずBに対しても解除の意思表示をする必要があるのです。
肢エ 誤
解除前の第三者の問題です。
解除権者と解除前の第三者についての調整規定が545条1項但書です。解除の場合は詐欺の場合と異なり契約は何ら問題なく有効に成立しております。
解除権者には何ら帰責性がないため、有効に取引した解除前の第三者と、解除権者とは、どちらも同じくらい保護すべき要請があるのです。
それゆえ、公示によって法律関係を明確にするため、解除前の第三者に登記の具備を要求したのです。つまり、登記の有無によって、画一的に処理することにしたのです。
したがって、本問において、解除前の第三者であるCは、C名義への移転登記が完了していなければ、この土地の所有権をAに対して主張することができないのです。
肢オ 正
他人物売買(560条、561条)の問題です。
本問だけ担保責任における解除の話なので肢ア~エとは解除の種類が異なる点に注意が必要です。使用利益についてはテキストで解説がなかったので少し難しかったかもしれません。ただ、肢ア~エまでは正誤の判断ができるはずですから消去法で正解できるでしょう。
第560条
他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
第561条
前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。
他人物売買における売主は、何ら権限なく他人の所有物を目的として売買契約を締結する者です。他人物売買の売主は、自己に契約の効果が帰属する契約当事者なので、その他人の権利を取得して買主に移転する義務があります(560条)
他人物売買の売主が、自己の帰責性なく、他人の権利を取得して買主に移転する義務(560条)を履行できなかった場合、売主が負うのが担保責任です(561条)。
本問では、Aが、他人であるB所有の自動車をCに売却する契約を締結し、その後、Bが、所有権に基づいてこの自動車をCから回収しているので未だAがBから所有権を取得してCに引き渡せていないことがわかります。
そのため、Cは、A・C間の売買契約を解除しています。
契約を解除すると、契約が遡及的に消滅します。契約が遡及的に消滅することによって、当事者間に受領した物(あるいは利益)を返還するという原状回復義務が発生します(545条1項)。
本問のように、Cが自動車を使用していた場合、Cには使用利益があります。
つまり、もしAC間の契約がなければCは自動車を使用することができず、料金を払ってレンタカーなどを借りなければならなかったはずです。ですから、使用利益としての賃料相当額を契約当事者である売主に支払わなければならないのです。これは本問のような他人物売買による場合であっても判例(最判昭和62年4月24日)は同様に判示しています。他人物売買も契約は有効であり、その売主も原状回復される契約当事者であることには通常の売買契約と異ならないからです。
したがって、Cは、Aに対しこの自動車の使用利益(相当額)を返還する義務を負うのです。
なお、他人物売買の売主には使用させる権限などないのだから、使用利益の返還を認めるのは妥当でないという考え方もあり、この考え方の方がしっくりしますが、試験との関係では判例の結論で押えておいてください。