商法・会社法 (H25-39)
取締役会設置会社(委員会設置会社を除く。)と取締役との間の取引等に関する次のア~オの記述のうち、会社法の規定に照らし、妥当でないものはいくつあるか。
ア 取締役が自己または第三者のために会社と取引をしようとするときには、その取引について重要な事実を開示して、取締役会の承認を受けなければならない。
イ 取締役が会社から受ける報酬等の額、報酬等の具体的な算定方法または報酬等の具体的な内容については、定款に当該事項の定めがある場合を除き、会社の業務執行に係る事項として取締役会の決定で足り、株主総会の決議は要しない。
ウ 会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするときには、その取引について重要な事実を開示して、取締役会の承認を受けなければならない。
エ 取締役が会社に対し、または会社が取締役に対して訴えを提起する場合には、監査役設置会社においては監査役が会社を代表し、監査役設置会社でない会社においては会計参与が会社を代表する。
オ 取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするときには、その取引について重要な事実を開示して、取締役会の承認を受けなければならない。
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
5 五つ
解答 2
本問は、個数問題ですが、内容としては取締役と会社の関係についての問題であり、各肢の内容が、競業取引、利益相反取引などと判断できればそれほど難しい問題ではないでしょう。
テキストP102~113
肢ア 正 肢ウ 正
両肢は、利益相反取引であり、肢アが直接取引、肢ウが間接取引です。
直接取引とは、取締役が、自己のために当事者として、または、第三者のために他人の代理人・代表者として、会社と取引することをいいます(365条1項2号)。
具体的には、取締役が会社から金銭を借り受けたり、また会社から財産を譲り受けたりする場合があります。
間接取引とは、会社と取締役以外の者との間における会社と取締役との利益が相反する取引をいいます(365条1項3号)。
具体的には、会社が取締役の債務を保証等する場合があります。
会社はあくまでも出資者たる株主のものなのです。
ですから、取締役が自己の利益のために会社の財産を自由自在に遣って会社に損害を負わせるような取引は慎重にさせるべきなのです。
そのため、取締役会設置会社以外では、株主総会による承認決議が必要です(356条1項2号3号 365条1項)
これに対して、取締役会設置会社では、会社の合理化の観点から機動的な経営判断というのも重要ですから、取締役会の承認決議でOKとしているのです。
肢イ 誤
会社と取締役との関係は委任契約ですが、取締役は職務執行の対価として報酬を受けます。
通常報酬額の決定というのは、業務執行行為なので、代表取締役または取締役会でなされるはずです。
しかし、それでは取締役が自分で自分の報酬額を決定することになっていわゆるお手盛り(自己の利益になるように報酬額を増加させる)の危険があるので、会社の財産的基礎を害する恐れがあります。
そこで、取締役の報酬額等は、定款または株主総会で決定することにしたのです。
肢エ 誤
会社が取締役の責任を訴訟によって追及する場合には、株主総会(353条)または取締役会で定めた者(364条)、あるいは監査役設置会社の場合は監査役(386条2項)、委員会設置会社では監査委員(408条3項1号)が会社を代表するものと定められています。したがって、非監査役設置会社における当該訴訟では、会計参与は会社を代表することはありません。
肢オ 正
本肢は、競業取引の問題です。
競業取引とは、取締役が自己の会社の事業と同じ部類の取引を、自己や第三者の利益のためにする取引をいいます。
取締役は、会社の業務執行の決定に関わっているので企業のノウハウや企業秘密を知っていることが多く、それを利用して取締役等が、自己や第三者の利益のために取引をすれば、会社の利益を損なうことにつながり、忠実義務違反となる可能性があります。
そのため、取締役会設置会社では取締役会において当該取引につき重要な事実を開示し、その承認が必要となるのです。