憲法 人権 (H25-4)
私法上の法律関係における憲法の効力に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。
1 私人間においては、一方が他方より優越的地位にある場合には私法の一般規定を通じ憲法の効力を直接及ぼすことができるが、それ以外の場合は、私的自治の原則によって問題の解決が図られるべきである。
2 私立学校は、建学の精神に基づく独自の教育方針を立て、学則を制定することができるが、学生の政治活動を理由に退学処分を行うことは憲法19条に反し許されない。
3 性別による差別を禁止する憲法14条1項の効力は労働関係に直接及ぶことになるので、男女間で定年に差異を設けることについて経営上の合理性が認められるとしても、女性を不利益に扱うことは許されない。
4 自衛隊基地建設に関連して、国が私人と対等な立場で締結する私法上の契約は、実質的に公権力の発動と同視できるような特段の事情がない限り、憲法9条の直接適用を受けない。
5 企業者が、労働者の思想信条を理由に雇い入れを拒むことは、思想信条の自由の重要性に鑑み許されないが、いったん雇い入れた後は、思想信条を理由に不利益な取り扱いがなされてもこれを当然に違法とすることはできない。
解答 4
肢4以外は、私人間効力の趣旨や基本判例から誤りだとわかるので消去法で正解できる問題です。
1 誤
私人間効力は間接適用説が判例・通説です。過去問(H18-3-5)と同様の問題です。
例えば、三菱樹脂事件判決によると、『憲法は、国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。』とされています。
ですから、問題文の「私法の一般規定を通じ憲法の効力を直接及ぼすことができる」という部分が誤りとなります。
2 誤
昭和女子大学事件判決によると、『退学処分をするかどうかは、学長の裁量権の範囲内にあるとして、無効とはならない』とされています。
ですから、問題文の「学生の政治活動を理由に退学処分を行うことは憲法19条に反し許されない。」という部分が誤りとなります。
3 誤
日産自動車会社事件判決によると、『会社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効である。』とされています。
ですから、問題文の「男女間で定年に差異を設けることについて経営上の合理性が認められる」という部分が誤りとなります。
4 正
百里基地訴訟判決からの出題です。百里基地訴訟は、統治の付随的審査制のところで勉強するので私人間効力のところでの出題に少し戸惑ったかもしれませんが、問題文を読めば間接適用説の考え方が妥当するので正しいとわかるでしょう。
百里基地訴訟判決
『憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」とは、公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味し、私人と対等の立場で行う国の行為は法規範の定立を伴わないから、「国務に関するその他の行為」に該当しない。それゆえ、国が私人と対等の立場で締結する私法上の契約は、特段の事情がない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私法の適用を受けるにすぎない。』
5 誤
三菱樹脂事件からの出題です。過去問(H18-3-2)と同様の問題です。
三菱樹脂事件判決によると、『企業者が特定の思想、信条を有する者を雇い入れることを拒んでも当然に違法とすることはできない。』とされています。
ですから、問題文前半の「企業者が、労働者の思想信条を理由に雇い入れを拒むことは、思想信条の自由の重要性に鑑み許されないが」という部分が誤りとなります。