商法・会社法 (H26-36)
商法上の支配人に関する次の記述のうち、商法の規定に照らし、正しいものはどれか。
1 商人が支配人を選任したときは、その登記をしなければならず、この登記の完了により支配人も商人資格を取得する。
2 支配人は、商人の営業所の営業の主任者として選任された者であり、他の使用人を選任し、または解任する権限を有する。
3 支配人の代理権の範囲は画一的に法定されているため、商人が支配人の代理権に加えた制限は、悪意の第三者に対しても対抗することができない。
4 支配人は、商人に代わり営業上の権限を有する者として登記されるから、当該商人の許可を得たとしても、他の商人の使用人となることはできない。
5 商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、支配人として選任されていなくても、当該営業所の営業に関しては、支配人とみなされる。
解答 2
商法上の支配人に関する基本的な問題ですので是非とも正解したい問題です。
テキストP215~ 類似過去問(H18-36)
肢1 誤
支配人とは、商人(会社)と雇用契約を結んだ商業使用人です。商業使用人とは、雇用契約などにより商人である営業主に従属し指揮命令に服する補助者のことをいい、独立の商人とは異なります。よって、肢1は誤りです。
なお、商人が支配人を選任したときは、その登記をしなければならない点は正しいです(商法22条前段)。
肢2 正 肢3 誤
商法第21条
1 支配人は、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
2 支配人は、他の使用人を選任し、又は解任することができる。
3 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
支配人とは、商人(会社)と雇用契約を結んだ商業使用人です。
そして、上記の通り、支配人は、「商人(会社)に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します(商法21条、会社法11条)。
支配人には包括的な代理権があるので、支配人は、他の使用人を選任し、又は解任することができるのです(21条2項)。
よって、肢2は正しいです。
ただし、商人(会社)との内部的な関係では、この代理権に制限をすることもできます。代理権の範囲は契約によって自由に決めることができるからです。
しかし、支配人の代理権に加えた制限などは、迅速性が要求される商取引においてすぐに確認できることでしょうか。
支配人には包括的な代理権があるのが原則であり、支配人と取引した第三者も通常は、そう信頼しているはずです。
しかも代理権に加えた制限が善意の第三者に対抗することができるとすると、善意の第三者はその商取引が支配人の権限の範囲のものかいちいち確認しなくてはなりません。
権限の範囲外ならば、無効な商取引となってしまうからです。
これでは商取引は渋滞し、取引の安全を害します。
ですから、取引の安全を保護するため代理権に加えた制限は善意の第三者に対抗できないとしているのです。よって、肢3は誤りです。
肢4 誤
商法第23条
1 支配人は、商人の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。
一 自ら営業を行うこと。
二 自己又は第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引をすること。
三 他の商人又は会社若しくは外国会社の使用人となること。
四 会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。
2 支配人が前項の規定に違反して同項第二号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって支配人又は第三者が得た利益の額は、商人に生じた損害の額と推定する。
支配人は営業主のいわば手足となる代理人です。
手足となるべき人間が、「営業主の許諾がなくとも自己または第三者のために営業主の営業の部類に属する取引を行うことができる」としたら、顧客を奪われるなどして営業主の商業活動に支障をきたしてしまいます。
本来、商人や会社の営利活動のための使用人であるはずなのに、自己の包括的な代理権を悪用し、自己の知りえた情報などをもとに、裏では自己又は第三者のために商売をやっていたのでは、会社にとっては顧客が共通するので不利益となりますね。
ですから商人の許可なく、このような行為はできないとされているのです。
いわゆる競業避止義務というものです(商法23条1項1号、会社法12条1項1号。)
もっとも、このような制限は商人の保護のためであるから、商人が許可したのであれば、このような制限は解除されます。
よって、商人の許可を得たのであれば、他の商人の使用人となることはできるのです。したがって、肢4は誤りです。
肢5 誤
商法第24条
商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該営業所の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
条文に「本店または支店の営業の主任者であることを示すべき名称を付した使用人」とありますが、このような名称からすると、その使用人はあたかも支配人のようですね。いわゆる表見支配人というものです(商法24条、会社法13条)。
民法で勉強する表見代理人と類似するものです。
それゆえ、①営業の主任者であるかのような外観の存在、②そのような名称を許している商人・会社の帰責性、③第三者の正当な信頼の要件を満たす場合は、支配人とみなして、その効果が商人・会社に帰属することになるのです。
ですから、そのような使用人が支配人ではないと知っている場合(=悪意)を除いて、相手方の取引の安全を保護する必要があります。
なお、取引の相手方が支配人ではないと知っている場合(悪意)は、知っていて取引しているのですから、その相手方を保護する必要はありません。
したがって、商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、支配人として選任されていなくても、相手方はそのことについて悪意であれば、当該営業所の営業に関しては、支配人とみなされるわけではありません。よって、肢5は誤りです。