商法・会社法 (H26-37)
株式会社の設立における出資等に関する次の記述のうち、会社法の規定に照らし、妥当でないものの組合せはどれか。
ア 株主となる者が設立時発行株式と引換えに払込み、または給付した財産の額は、その全額を資本金に計上することは要せず、その額の2分の1を超えない額を資本準備金として計上することができる。
イ 発起人は、会社の成立後は、錯誤を理由として設立時発行株式の引受けの無効を主張し、または詐欺もしくは強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない。
ウ 設立時発行株式を引き受けた発起人が出資の履行をしない場合には、当該発起人は当然に設立時発行株式の株主となる権利を失う。
エ 発起人または設立時募集株式の引受人が払い込む金銭の額および給付する財産の額の合計が、定款に定められた設立に際して出資される財産の価額またはその最低額に満たない場合には、発起人および設立時取締役は、連帯して、その不足額を払い込む義務を負う。
オ 設立時発行株式の総数は、設立しようとする会社が公開会社でない場合を除いて、発行可能株式総数の4分の1を下ることはできない。
1 ア・イ
2 ア・オ
3 イ・ウ
4 ウ・エ
5 エ・オ
解答 4
組合せ問題であり基本的な会社設立の問題なので是非とも正解したいところです(テキストP3~24)。
ア 誤
第445条
1 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
2 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
3 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。
上記の条文の通り、資本金の額は、原則として、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とされます(445条1項)。
このように、出資された財産の額が資本金の額になることを資本充実の原則といいます。
例えば、設立時に1株1万円の株式を1000株発行して全額払込がされれば、1000万円が会社の資本金となるということです。
ただし、払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができるとされています(445条2項)。
ですから、上記の例で募集株式発行により1株1万円の株式を1000株発行して全額払込がされた場合でも、500万円については資本金として計上しないことができます。
もっとも、残りの500万円は、資本準備金として計上しなければならないとされています(445条3項)。
準備金とは、法が資本金額に相当する会社財産に加えて準備金額に相当する会社財産を確保しない限り、剰余金(会社が事業で得た利益)の配当を許さないとすることによって、企業経営に起因する会社財産の変動に対するクッションの役割を果たすものです。
イ 正
第51条2項
発起人は、株式会社の成立後は、錯誤を理由として設立時発行株式の引受けの無効を主張し、又は詐欺若しくは強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない。
発起人は、株式会社の成立後は、錯誤を理由として設立時発行株式の引受けの無効を主張し、又は詐欺若しくは強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができないとされています。
会社成立後に錯誤無効または詐欺取消しされて株式の引き受けがなかったことになると、会社の成立そのものが怪しくなるので、会社成立後に錯誤無効または詐欺取消しを認めると取引の相手方等の不利益が大きくなります。
そのために会社成立後は法的安定性のため錯誤無効または詐欺取消しができないのです。
ウ 誤
第36条
1 発起人のうち出資の履行をしていないものがある場合には、発起人は、当該出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、その期日までに当該出資の履行をしなければならない旨を通知しなければならない。
2 前項の規定による通知は、同項に規定する期日の二週間前までにしなければならない。
3 第一項の規定による通知を受けた発起人は、同項に規定する期日までに出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利を失う。
上記の通り、まずは通知が必要であり、通知をしても出資の履行をしない場合に失権するのです。
エ 誤
第52条
1 株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額(定款の変更があった場合にあっては、変更後の価額)に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う。
財産引受け及び現物出資の実際の価額が定款記載の価額と比べて著しく不足している場合、その責任は原則として発起人がとります(103条1項、52条)。
この責任とは、上記不足額を会社と連帯して発起人が補填する、不足額填補責任をいいます。
この責任は発起設立の場合は過失責任ですが、募集設立の場合は、出資者に第三者がいるので、第三者の利益を害さないように無過失責任(103条)となっています。
もっとも、この責任が生じるのは現物出資だけであり、あくまでも定款記載の価格を基準としているものです。
ですから、金銭出資の場合はこのような責任は負いませんし、最低額を基準とするものではありません。
なお、会社法改正前は、引受・払込担保責任という制度がありました。
例えば、設立時に発行する株式総数を定款で1000株としていた場合に、株式の引受けが失権して、900株となったとしましょう。この場合でも、資本金が1000万以上であり、他の法令違反がなければ原則として会社は設立できました。
もっとも、定款に記載した株式総数に達していませんから、この責任を発起人に負わせていたのです。
株式の引受けが失権した場合、およびそれに伴って出資も払い込まれませんから、引受け・払込み担保責任を負わせていたのです。
会社を設立すれば、多数の利害関係人がでてきますから、慎重な設立が求められていたのです。現在の会社法よりも会社の適正化の要請が強かったのです。
しかし、こうした責任を負わされるような慎重さを要求されると、会社を設立しやすい社会的な環境にあるとはいえないですね。
そこで、改正の一つとして、上記の設立時に発行する株式総数を定款記載事項から除去して、代わりに「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27条4号)が定款記載事項になりました。
これにより、発起人が自分で決めた設立に際して出資される財産の最低額さえ満たせば、設立ができるようになりました。
オ 正
第37条
1 発起人は、株式会社が発行することができる株式の総数(以下「発行可能株式総数」という。)を定款で定めていない場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、定款を変更して発行可能株式総数の定めを設けなければならない。
2 発起人は、発行可能株式総数を定款で定めている場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、発行可能株式総数についての定款の変更をすることができる。
3 設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の四分の一を下ることができない。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。