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民法 総則 (H27-28)


心裡留保および虚偽表示に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。


1 養子縁組につき、当事者の一方において真に養親子関係の設定を欲する意思がない場合であっても、相手方がその真意につき善意、無過失であり、縁組の届出手続が行われたときは、その養子縁組は有効である。

2 財団法人(一般財団法人)の設立に際して、設立関係者全員の通謀に基づいて、出損者が出損の意思がないにもかかわらず一定の財産の出損を仮装して虚偽の意思表示を行った場合であっても、法人設立のための当該行為は相手方のない単独行為であるから虚偽表示にあたらず、財団法人の設立の意思表示は有効である。

3 土地の仮装譲渡において、仮装譲受人が同地上に建物を建設してその建物を他に賃貸した場合、建物賃借人において土地譲渡が虚偽表示によるものであることについて善意であるときは、土地の仮装譲渡人はその建物賃借人に対して、土地譲渡の無効を理由として建物からの退去および土地の明渡しを求めることができない。

4 仮装の売買契約に基づく売買代金債権が他に譲渡された場合、債権の譲受人は第三者にあたらないため、譲受人は、譲受債権の発生原因が虚偽表示によるものであることについて善意であっても、買主に対して売買代金の支払を求めることができない。

5 金銭消費貸借契約が仮装され、借主に金銭が交付されていない場合であっても、当該契約に基づく貸金債権を譲り受けた者は、譲受債権の発生原因が虚偽表示によるものであることについて善意であるときは、借主に対して貸金の返済を求めることができる。



解答 5


肢3~肢5については、演習問題4でも類似問題を出題している94条2項の「第三者」についての基本的な問題ですので、是非とも正解して欲しい問題です。


テキストP82~


94条2項の「第三者」とは、当事者および相続人等の包括承継人以外の者であって、虚偽表示の存在を前提に、かかる虚偽表示に基づいて新たな独立の利害関係を有する者をいうと解されています。

テキストにあるとおり、「第三者」=虚偽表示に基づいて新たな独立の利害関係を有する者かどうかですが、その具体的な目安、つまり判断基準は何でしょうか。

簡潔にいうと、処分権限を有する第三者か否かが、一つの判断基準になります。

つまり、仮に虚偽表示がなく有効な取引行為であるならば、処分権限を有する第三者は、利益を得る者であり、かつ無効であれば、損失を被る者となります。

ですから、有効の場合に利益になるが、無効でもとりわけ損失にならない者は、それほど強い利害関係を持つ者ではないので「第三者」に含まれないと考えてください。以上を前提に個別に肢を見ていきましょう。


肢1  誤

そもそも身分行為には、意思表示の規定が適用されません。

身分行為は、当事者のみならず第三者にも効力が生じるためです。

例えば、婚姻は、当事者の意思だけではすることはできず、必ず婚姻届を役所に提出することで成立します。

養子縁組とは、血縁にない人間同士が合意によって、法的な親子関係を作り出すことをいいます。

この定義からもわかるとおり、養子縁組には、当事者の合意が必要となります。また、親子関係は当事者だけでなく、対外的にも親子関係であることが公にされなければなりません。

ですから、養子縁組の届出が必要となります(802条)。

このように、養子縁組には、当事者の合意と届出が必要なのです。そういう意味では婚姻と同様です。

したがって、本問のように、養子縁組につき、当事者の一方において真に養親子関係の設定を欲する意思がない場合、当事者の合意が成立していない以上、養子縁組は無効です。

肢2 誤

これは判例(最判昭和56年4月28日)を知らないと少し難しいですね。

ただ、正解肢ではないので、あまり気にすることはないでしょう。

法律行為は、当事者の意思表示によって成立し、その典型が契約です。その他、法律行為には、単独行為あり、単独行為の中には、相手方のある単独行為(例:解除)や相手方のない単独行為(例:寄付行為)があります。虚偽表示は、相手方との通謀を前提とするので、原則として、契約や相手方のある単独行為にのみ適用されます。

もっとも、本来は通謀を観念しにくい相手方のない単独行為であっても、本件のように、寄付行為であっても設立関係者全員の通謀に基づいて、出損者が出損の意思がないにもかかわらず一定の財産の出損を仮装して虚偽の意思表示を行った場合、94条が類推適用されて、財団法人の設立の意思表示は無効となります。

肢3 誤

当事者間の虚偽表示による取引は、あくまでも土地の売却です。そうすると、建物賃借人は、建物の賃借人にすぎず、土地の処分権限を有する者ではないですね。

また、土地の売買契約が虚偽表示により無効となったとしても、建物の賃貸借契約が適法である以上、それだけで直接的に建物賃借人がその地位を失うわけではありませんから不利益となる損失もありません。ですから、建物賃借人は土地について利害関係のある「第三者」にあたらないのです。

肢4 誤

債権の売買契約が、虚偽表示がなく有効であれば、債権の譲受人はその貸金債権の債権者となりますから、債権の回収をすることができます。

ですから、仮装債権の譲受人は、処分権限を有する者であり、新たな独立の利害関係を有する「第三者」にあたるのです。

 なお、古い判例ですが、大判明治40年2月1日があります。

肢5 正

肢4との違いは、仮装されているのが、売買契約ではなく、金銭消費貸借契約である点です。金銭消費貸借契約は、金銭の交付を必要とする要物契約ですが、要物性は厳格に要求されておらず、金銭の交付をしていなくても、すくなくとも当事者の意思だけで金銭消費貸借予約は成立しております。したがって、後は売買契約と同じように考えればよいわけです。

つまり、金銭消費貸借予約につき、虚偽表示がなく有効であれば、債権の譲受人はその貸金債権の債権者となりますから、債権の回収をすることができます。

ですから、仮装債権の譲受人は、処分権限を有する者であり、新たな独立の利害関係を有する「第三者」にあたるのです。

このように、処分権限の有無という基準で理解すれば、判例の事案を丸暗記しなくても容易に知識化できると思いますので参考にしてみてください。

 なお、古い判例ですが、大決大正15年9月4日があります。




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