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民法 債権 (H27-32)


AがBに対して電器製品を売却する旨の売買契約(両債務に関する履行期日は同一であり、AがBのもとに電器製品を持参する旨が約されたものとする。以下、「本件売買契約」という。)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、誤っているものはどれか。


1 Bが履行期日を過ぎたにもかかわらず売買代金を支払わない場合であっても、Aが電器製品をBのもとに持参していないときは、Aは、Bに対して履行遅滞に基づく損害賠償責任を問うことはできない。

2 Aが履行期日に電器製品をBのもとに持参したが、Bが売買代金を準備していなかったため、Aは電器製品を持ち帰った。翌日AがBに対して、電器製品を持参せずに売買代金の支払を求めた場合、Bはこれを拒むことができる。

3 Bが予め受領を拒んだため、Aは履行期日に電器製品をBのもとに持参せず、その引渡しの準備をしたことをBに通知して受領を催告するにとどめた場合、Bは、Aに対して、電器製品の引渡しがないことを理由として履行遅滞に基づく損害賠償責任を問うことはできない。

4 履行期日にAが電器製品を持参したにもかかわらず、Bが売買代金の支払を拒んだ場合、Aは、相当期間を定めて催告した上でなければ、原則として本件売買契約を解除することができない。

5 履行期日になってBが正当な理由なく売買代金の支払をする意思がない旨を明確に示した場合であっても、Aは、電器製品の引渡しの準備をしたことをBに通知して受領を催告しなければ、Bに対して履行遅滞に基づく損害賠償責任を問うことができない。



解答 5


双務契約における同時履行の抗弁権、履行の提供、解除に関する基本的な問題ですので是非とも正解したいところです。


解答 5  テキストP448、554、603、614


肢1 正

債務不履行(履行遅滞)となるためには、その要件として、「履行しないことが違法であること」が必要です。 債務者に同時履行の抗弁権等の正当な理由がある場合には、債務不履行(履行遅滞)となりません。同時履行の抗弁権とは、売買契約などの双務契約の当事者の一方が、相手方が債務の履行を提供するまで、自己の債務の履行を拒み得ることをいいます(533条)。

例えば、履行期を経過しているが、買主が代金を支払わないために、売主が物の引渡しをしていない場合、売主には、同時履行の抗弁権があるので、履行しないことが違法とはなりません。ですから、売主は買主が代金を支払うまでは目的物の引渡しを拒むことができるのです。

本肢では、持参債務なので、履行の提供は、Aが物をBの下へ持参して引き渡すことです。したがって、Aが電器製品をBのもとに持参していないときは、Aは、Bに対して履行遅滞に基づく損害賠償責任を問うことはできないのです。

肢2 正

肢1のとおり、債務者に同時履行の抗弁権等の正当な理由がある場合には、債務不履行(履行遅滞)となりません。同時履行の抗弁権は、履行の提供がない限り、消滅しません。

したがって、AがBに対して、電器製品を持参していない以上、売買代金の支払を求められてもBはこれを拒むことができるのです。

なお、Aが履行期日に電器製品をBのもとに持参によって履行の提供となるので、Bの同時履行の抗弁権は消滅するため、この際にAがBに対して売買代金の支払を求めていればBはこれを拒むことができないのです。つまりAが電器製品をそのままBのもとに置いて帰っていれば、その時以降、Aの債務不履行となるのです。

肢3 正

弁済の提供をするには原則として現実の提供が必要です。

 例えば、持参債務の場合、売主が、買主の住所地に物を持参して現実に提供しなければならないということです。もっとも、債権者があらかじめ受領を拒んだ場合は、口頭の提供で足ります(492条)。

口頭の提供とは、弁済の準備をしたことを通知してその受領を催告する弁済の提供の方法をいいます。例えば、弁当を取りに来る取立債務の場合、債権者に電話していつでも取りに来て大丈夫ですよ、と言えば口頭の提供になります。

したがって、Bが予め受領を拒んだため、Aは履行期日に電器製品をBのもとに持参せず、その引渡しの準備をしたことをBに通知して受領を催告するにとどめた場合でも口頭の提供はあります。

よって、Bには債務不履行はないため、Aに対して、電器製品の引渡しがないことを理由として履行遅滞に基づく損害賠償責任を問うことはできないのです。

肢4 正

履行期日にAが電器製品を持参した以上、履行の提供があり、Bは履行遅滞になっています。

そして、履行遅滞による解除をするためには、相当の期間を定めた催告が必要で、その期間内に履行されない場合に解除ができます(541条)。

催告とは、債務者に対して債務の履行を促す債権者の通知をいいます。

例えば、弁済期が経過しているのに支払われない場合に、債権者が1週間以内に支払うように債務者に催告し、それでも履行しない場合に解除することができるのです。

相当の期間とは、すでに履行の準備をしてある債務者が履行をするのに必要な期間をいいます。

肢5 誤

肢3と異なり、債権者が弁済を受領しないことを明確にしている場合は、債務者は口頭の提供をしていなくても履行遅滞の責めを負いません。履行の提供をしても意味がないからです。

したがって、履行期日になってBが正当な理由なく売買代金の支払をする意思がない旨を明確に示した場合、Aは、口頭の提供すらしなくても、Bに対して履行遅滞に基づく損害賠償責任を負うことはありません。




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